火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 燦はその様子を見て大笑いし、その場で立ち上がる。

「困ったことだ! 花緒が産む子が男児なら、王位を継ぐべきはその赤子。俺は単なる間に合わせ、その場をしのぐためだけの仮初めの王ということになる」

 その言葉で、久遠はようやく状況を理解した。

 綺羅ノ国では、同じ主家から二代続けて后を輩出することはできない。天の怒りを買わぬため、五主家で定めた決まりごとだ。
 だから、先ほどまで燦の后の座を取ろうと必死だった三主家は、急に遠慮がちになったのだ。

 姫を燦に嫁がせたところで、その姫の産んだ子が王になれるとは限らない。年が明けて花緒が男児を産めば、その子に王位が戻ることになるからだ。それが、ここ綺羅ノ国の王位継承順の決まりである。
 外戚として力を強めたい各主家にとっては、燦の后を輩出する意義が薄れた、ということになる。

(女児が生まれることを期待して燦様の后を輩出するか、男児が生まれた時のためにいったん身を引くか――なんという駆け引きだろう)

 十六夜の里で掃除や洗濯に明け暮れていた久遠にとっては、政の場に身を置くこと自体が初めてのこと。これが主家同士の戦いなのだ。
 十六夜家は夢見の才を使って、彼らと共に生きねばならない。自分にもいつか、父と同じような覡の役割が務まるのだろうかと考えると怖くなり、座っているのに眩暈がした。

「それで、肝心の后選びのことだが」

 燦が再び座に着き、三主家当主の顔を眺める。
 しかし、燦と目を合わせる者はいなかった。

「……こういうのを、手のひらを返すというのだ」

 燦の、馬鹿にしたような声が朝堂に響く。烽火は咳払いで誤魔化しながら、渋々返事をした。

「……花緒様の御子が男児ならば、その御子が燦王の次の王となられるわけですな。しかし女児ならば、燦王の后となる姫が産んだ子が、次の王となる」
「そういうことだ。こうなっては、俺のような素行の悪い王にわざわざ自分の家の姫を嫁がせたい者はおるまい。どうだ? ここは、后選びを天に任せるというのは」
「天に任せる? そのようなことができましょうか」
「ああ。そこに控えているのは、各主家に仕える十六夜家の覡だと聞いている。覡には夢見の才があるのだろう? 俺は今夜、十六夜に夢見を頼むことにしよう。そして、夢に出てきた相手を后と定める」