火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 ここ十六夜の里には、旅人たちの宿場が多くある。都に向かう商人に混じって、時折ここ綺羅(きら)(くに)の政を支える五主家(ごしゅけ)の者がお忍びで宿を取ることもある。
 欲にまみれた野盗の勘というのは鋭いもので、このような高貴な身分の者を見抜いて襲うのだ。

「――あなたたち、手を放しなさい!」

 白藍の袿の女は男たちから逃れようと必死に腕を振り回す。が、ささやかな抵抗では彼らはびくともしない。

(本当に、何も分かっていない姫様なんだなあ)

 困った人を放っておけない自分の性質(たち)を呪いたい。久遠は胸に一息大きく吸うと、思い切って野盗の目の前に飛び込んだ。

   ◇

 ここ綺羅ノ国は、陽、雲、風、木、海を司る(さい)を有する、五主(ごしゅ)家が支配する島国である。

 才というのは天から与えられた通力のことで、五主家に代々受け継がれる。

 陽を司るのは陽主、日紫喜(ひしき)家。
 そのほかに、雲主、久靄(くもや)家。
 風主、和暮(わぐれ)家。
 木主、烽火(のしろ)家。
 海主、碧李(あおい)家。

 遠い昔のこと――綺羅ノ国の五主家の地位は対等であった。
 天の下に五主家が集い、それぞれの才を活かして綺羅ノ国の平穏を守る――それが、天が五主家に与えた定めである。

 しかし、時を経るうちに五主家はその定めを忘れ、お互いの領や富を巡って無益に争うようになった。国は荒れ、罪のない多くの民が巻き込まれて命を落とすこととなった。

 天は激昂した。
 その怒りは大嵐となって、綺羅ノ国を襲った。
 山は崩れ、川は氾濫し、里や林は大火に襲われ。
 このままでは綺羅ノ国は滅びるしかない――そこで五主家はようやく争いをやめ、天に赦しを乞うたという。

 天は怒りをおさめる代わりに、陽主・日紫喜家を綺羅ノ()とし、そのほかの四主家を束ねるよう命じた。主家同士が二度と諍いを起こさぬよう、日紫喜に綺羅の番人たる地位を与えたのだ。

 しかし、元は対等であった五主家の中から日紫喜だけを王としたのでは、ほかの四主家が黙っているはずがない。

 そこで天は、日紫喜家にとある命を下した。
 綺羅ノ王の后には、日紫喜家以外の姫を娶るように、というものだ。