火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

燦王(さんおう)、お待ちしておりましたぞ」

 最長老であろう、烽火(のしろ)家の当主が重々しく口を開いた。
 燦はそれに返事をしない。集まった面々の顔を見渡し、無言で御座にあぐらをかいて座った。
 その隣に花緒が寄り添うように並ぶ。
 花緒と目が合うと、彼女の口元に小さく笑みが浮かんだ。久遠がこの場にいることを、燦が花緒に伝えたのだろう。

 しばしの沈黙。誰かが息を呑む音があたりに響いた。

 この合議では、燦の后を決めることになる。まだほとんど誰も発言をしていないというのに、その場の空気は既に張りつめていた。主家の当主たちはお互いを牽制し合うように、顔を見合わせる。
 最初に口を開いたのは、久靄(くもや)家の当主だった。

「燦王。(さき)の王が崩御したばかりではありますが、燦王には早急に后をお決めいただきたい。毎月の祭祀(さいし)には王と后が揃って共に臨まねばなりません。そうでなければ、綺羅ノ国は再び天の怒りを買います」

 不安そうに言った久靄家当主も、烽火家当主と同様にかなり年を召している。目が不自由なのか、目隠しのような布を巻き、頭の後ろで結んでいた。
 花緒の実家である和暮(わぐれ)家は燦の后選びには参加できないので、黙って様子を窺っている。碧李(あおい)家の輝比佐(てるひさ)も、目を閉じて静かに話を聞いていた。

 燦は四主家当主の顔を舐めるように見たあと、大声を上げて笑い始めた。

「……俺の后になろうという物好きな姫がいるのか?」

 その一言をきっかけに、烽火と久靄の顔色が変わる。

「燦王! 和暮以外の三主家には、それぞれ王と年の近い姫がおりますぞ。特に我が烽火家、私の孫にあたる姫が今年で十九。闊達な性分ゆえ、燦王とも気が合うのではないかと」
「烽火殿。先駆けは見苦しいぞ。我が久靄家にも、器量よしの賢い姫がおります」
「器量よしか。久靄殿は、その目で姫の器量が分かるのか?」