火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「花緒のことは、合議の場で俺から五主家の皆に伝える。お前も十六夜の者なら、合議に同席するのだろう?」
「はい。父と兄に付き添います。もちろん、花緒様のご懐妊については、僕からは誰にも言いません」
「頼む。さあそろそろ行くか。今頃、和暮(わぐれ)以外の三主家は、俺の后を誰にしようか戦々恐々としているだろう」

 そういうと、燦は久遠に背を向けて歩き始める。久遠も慌ててその背中を追うが、燦はすぐに立ち止まって振り返った。

「そう言えば、お前の名を聞いていなかった」
「失礼しました。僕は、十六夜久遠と言います」
「久遠……十六夜久遠か」

 何かを思い出そうとするように、燦は天を仰いだ。久遠もつられて空を見上げる。
 今日は久しぶりに晴れている。太陽の光が燦の髪に注ぎ、黒髪を艶やかに照らし出す。嵐の翌日にも見たその髪色があまりにも美しくて、久遠は言葉を失い見惚れていた。


   ◇


 合議は、土壁で囲まれた日紫喜家の屋敷の中央にある、朝堂(ちょうどう)という建物で行われる。

 父と兄に続いて中に入ると、板張りの床に、美しい装飾が施された敷布が用意されていた。どうやら予め座る位置は決まっているらしく、十六夜家の三人は最も戸に近い下座に着くように案内された。

 前方に目をやると、床が一段高くなっているところがある。あそこに新王・燦が座るのだろう。
 そしてその前には、左右に分かれてずらっと、五主家の面々が向かい合うようにして座っていた。

(兄上が面倒だと言っていた碧李家の輝比佐(てるひさ)様というのは、あの方だな)

 長髪を後ろで束ねることが多いこの綺羅(きら)ノ国では、短く切りそろえた輝比佐のような髪型は珍しい。こういうところにも、碧李輝比佐が変わり者であるということが容易に窺えた。

(主家は対等と言いつつ、才の強さによって席の序列があるみたいだ)

 主家それぞれの才は、互いの組み合わせによって優劣が決まっている。

 例えば花緒の実家である和暮家の「威風(いふう)の才」は、久靄(くもや)家の「霧中(むちゅう)の才」を打ち消す力を持っている一方で、烽火(のしろ)家の「雷火(らいか)の才」には弱い。
 そして烽火家の「雷火の才」は久靄に対しては強くても、碧李家の「水煙(すいえん)の才」には歯が立たない。