五主家の者でもない、ただの小間使いの久遠が、即位前の新王に会っていたなんて。
(……ということは、花緒様が新王の后? では今回のお后選びはなんのために?)
絶句したまま立ち尽くしていると、久遠の様子を見て燦が笑った。
「驚きすぎだ。さしずめ、俺が王に見えぬとでも言いたいのだろう? 俺だって、断れるものなら王になどなるものか。后選びも不要だと言っているのに」
「でっ、ですが! 花緒様が燦様の……いえ、燦王のお后なのでは?」
「無理に俺を燦王などと呼ばなくて構わない。それと、花緒は兄の……日紫喜耀の后だ」
「……え?」
(花緒様が、前王の后?)
胸の奥が、突然ぎゅっと締め付けられるように痛む。
今、花緒は懐妊しているはずだ。もしも嵐の夜に視た久遠の夢見が正しければ、だが。
花緒が前王の御子を宿しているなら、その御子は生まれる前に父親を亡くしたということになる。あまりに不憫ではないか。久遠は息苦しくなって胸を押さえた。
「懐妊のことは、誰にも知らせていなかったようだ。お前はどうやって知った?」
誰にも聞かれたくないのか、燦は久遠の耳元に口を寄せ、低く囁く。
熱い息が耳をかすめ、久遠は驚いて背筋を伸ばした。
「……夢見です。十六夜家の覡には夢見の才があります。僕はまだ見習いですが、偶然花緒様の夢が見えてしまって……」
「お前は、他人の夢が見えると?」
「はい。ですから、五主家の当主様からは夢見の才を重宝していただいています。占いのようなものとお考えいただければ」
夢見について素直に真実を告げてから、久遠は「しまった」と思い直した。
久遠が持つ才は、十六夜家に伝わる夢見の才とは少し質が違う。
父が兄の才は、「前途」を見るので先視の才ともいえるが、久遠のそれは、他人の夢に入り込んで「過去」を見るような感覚である。
(僕の才は、政にかかわる五主家にとって、あまり良いものとは言えないかもしれない)
もしも久遠が五主家の夢見をすれば、まだ公になっていない秘密の政の話を知ってしまうことだってあるかもしれない。
下手なことを言わなければよかった。燦からお咎めを受けることを覚悟しながら、久遠は俯いて返事を待つ。
しかし、燦は意外にもあっさりと久遠の側から離れた。
(……ということは、花緒様が新王の后? では今回のお后選びはなんのために?)
絶句したまま立ち尽くしていると、久遠の様子を見て燦が笑った。
「驚きすぎだ。さしずめ、俺が王に見えぬとでも言いたいのだろう? 俺だって、断れるものなら王になどなるものか。后選びも不要だと言っているのに」
「でっ、ですが! 花緒様が燦様の……いえ、燦王のお后なのでは?」
「無理に俺を燦王などと呼ばなくて構わない。それと、花緒は兄の……日紫喜耀の后だ」
「……え?」
(花緒様が、前王の后?)
胸の奥が、突然ぎゅっと締め付けられるように痛む。
今、花緒は懐妊しているはずだ。もしも嵐の夜に視た久遠の夢見が正しければ、だが。
花緒が前王の御子を宿しているなら、その御子は生まれる前に父親を亡くしたということになる。あまりに不憫ではないか。久遠は息苦しくなって胸を押さえた。
「懐妊のことは、誰にも知らせていなかったようだ。お前はどうやって知った?」
誰にも聞かれたくないのか、燦は久遠の耳元に口を寄せ、低く囁く。
熱い息が耳をかすめ、久遠は驚いて背筋を伸ばした。
「……夢見です。十六夜家の覡には夢見の才があります。僕はまだ見習いですが、偶然花緒様の夢が見えてしまって……」
「お前は、他人の夢が見えると?」
「はい。ですから、五主家の当主様からは夢見の才を重宝していただいています。占いのようなものとお考えいただければ」
夢見について素直に真実を告げてから、久遠は「しまった」と思い直した。
久遠が持つ才は、十六夜家に伝わる夢見の才とは少し質が違う。
父が兄の才は、「前途」を見るので先視の才ともいえるが、久遠のそれは、他人の夢に入り込んで「過去」を見るような感覚である。
(僕の才は、政にかかわる五主家にとって、あまり良いものとは言えないかもしれない)
もしも久遠が五主家の夢見をすれば、まだ公になっていない秘密の政の話を知ってしまうことだってあるかもしれない。
下手なことを言わなければよかった。燦からお咎めを受けることを覚悟しながら、久遠は俯いて返事を待つ。
しかし、燦は意外にもあっさりと久遠の側から離れた。

