火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 一葉は燦の胸から離れた。袖で涙を拭って、もう一度よく目を凝らして屏風を見る。
 ……先ほど見たのと同じ絵だ。
 沓を脱いで縁側に上がり、屏風の前に正座をして再び眺める。

(もう一つ、気付くことなんて……ある?)

 困り果てて振り向くと、燦は呆れたようにふっと笑った。

「まだ分からないのか。そこに描かれているのは、胸に月を抱く姫だろう?」
「はい」
「胸に月を抱く姫が、俺の后になるんじゃないのか?」
「夢見の結果はそうでしたが……あっ、まさか……」

 そうか。この屏風に描かれた女が一葉なのだとしたら、胸に月を抱く姫というのは一葉のことになる。つまり――。

「私が、燦様の后に?」

 燦は片方の口元を上げて微笑むと、ゆっくりと頷いた。
 ……信じられない。
 一葉の胸の奥から、言葉にできない感情が湧き上がる。

「お前が戻ってくるのをずっと待っていた。一葉は、自分の力で前を向いたな」
「……過去に囚われていたところから一歩、進めた気がします」
「月主であり、綺羅ノ王の后。運命に立ち向かい、負けずに前を向いた一葉にしかできないことだ」
「はい。私は強くありたい。そして……燦様のお側にいたいのです」

 燦は頷いて、そして空を見上げた。一葉も隣に寄り添って、顔を上げる。

 西の空はもう、茜色に染まり始めている。
 燃える炎のような眩しい太陽。そして反対側には、琥珀の月。

 もうすぐ、夜が訪れる。
 夢見にはまだ早いのに、燦の指が一葉の指に絡んだ。触れた指先から伝わるのは、夢ではなくて燦の熱だ。

 今夜はどんな夢を見るだろう。
 願わくば、隣にいる王の夢を見たい――一葉は燦の肩に頬を寄せ、目を閉じた。

(了)