火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 前に見た時、屏風の一番左の(せん)には何も描かれていなかった。しかし、今は違う。人のような絵が見える。一葉の見間違いではなさそうだ。

 燦は縁側から寝室に上がり、屏風を手に戻ってくる。
 太陽の光の下で見ると、屏風に使われている金箔がきらりと光った。一葉はその眩しさに目を閉じて、そして再びゆっくりと開けた。

 一番左側の扇を見る。
 そこには、一人の女の姿が描かれている。
 そしてその女は、胸に石を抱いていた。

「燦様! 私が夢に見たのは、この女の人です! 間違いありません」
「そうか。この屏風には、それぞれの扇に主家の才と宝物が描かれている。実は五日ほど前、一番左の扇に突然、この絵が現れた」
「月主……ですね」

 間違いない。ほかの扇には、日紫喜、和暮、烽火、碧李、久靄――そして各主家の宝物が描かれている。残っているのは、月主・十六夜家のみだ。

「どこからどう見ても、女の絵だな」
「はい」
「十六夜家にいる女は、誰だ?」
「……私です。十六夜家の直系には、私以外に女はいません」

 この十年、十六夜は天からの罰として「男児しか生まれない」という呪いをかけられていた。それ以前は、父にも、そして祖父にも姉妹はいない。
 つまり十六夜家の女というのは、それすなわち一葉のことである。

「天は十六夜を赦してくださったのでしょうか? 私に月主として十六夜家を継げと?」
「そうだ」

 涙が溢れた。一葉は口元に手を当てて嗚咽を堪える。
 燦は先ほど、屏風にこの絵が現れたのは、五日ほど前だと言った。五日前と言えば、あの嵐の日だ。一葉が桔梗姫の部屋で「燦に会いに行こう」と決めて、前を向いた日。

 綺羅ノ国の主家は陽主・日紫喜の王に従い、才を生かして国の平穏を守る。燦から離れていた一葉が、月主としてもう一度燦の側に寄り添い、支えていくと決めたことで、天は十六夜の罪をお赦しになったのだ。

(過去の罪は消えない。でも、これで前途(みらい)に向けて堂々と進んでいける)

 我慢できなくなり、声を上げて泣いた。すると燦が一葉の頭を撫でる。
 一葉は燦の胸の中に飛び込んで、その温もりに身を預けた。

「一葉。それともう一つ、気付いたことがあるだろう?」
「もう一つ?」
「分からないのか?」
「そんなこと言われても」