火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 祖父と父が蘇芳姫の命を奪ったあの夜、母はこと切れた蘇芳姫の背中を撫で、反対側の手で一葉を抱き締めた。その時に、祖父たちに聞かれないよう一葉にだけこっそり囁いたのだ。

『この石を大切に。どうしても辛くなった時に必ず助けてくれるから――』と。

 母は懐から石を取り出し、一葉の懐に突っ込んだ。その直後に、一葉は母から引き離されることとなった。

 十六夜家は主家に相応しくない。祖父と父を止めることができなかった母は、せめて十六夜の宝物だけは渡すまいと考えたのだろう。

「だから……どうか壊さないでください……」

 涙まじりの声で燦に縋る。
 十六夜が犯した罪は、月影の石を壊すのではなく、別の形で償わせてほしい。
 燦は、一葉を落ち着かせるようにそっと肩に手を置いた。そして一葉の目の前に、月影の石を差し出す。

「壊したりするものか。これを見ろ」
「……え?」

(あれ?)

 おかしい。一葉が燦に渡したのは、どこにでもあるゴツゴツした石の塊だった。
 しかし今、燦が一葉の目の前に下げているのは、琥珀(こはく)色に光る宝石のような美しい石。

「……これは、なんですか?」
「月影の石の、本当の姿だ。元はこんなにも美しかったんだな。長年の間、周りを塗り固められて隠されていたようだ」
「私が持っていた石ころの中に、こんな宝石が入っていたと? それを取り出すために石を割ったのですか?」
「ああ。俺が、お前の大切なものを壊すわけがないだろう?」

 良かった。安心のあまり力が抜けて、一葉はその場にへたり込んだ。燦から月影の石を受け取り、太陽に透かして見る。

「綺麗……本物の月みたい」

 日の光を浴びて、輝く月。
 そう。それはまるで、以前一葉が夢に見た、美しき姫が胸に抱く光のような――。

(あの夢は、燦様の夢見をした時に視たものだったっけ)

 合議の場で燦に夢見を頼まれ、燦の后となるべき相手を視た夜。その夜の夢に出てきた女性が胸に抱いていた石も、このように光り輝いていた。
 あまりの美しさに一葉が言葉を失っていると、燦は満足げに微笑んだ。

「一葉。あれを見てくれ」

 燦は振り向いて、寝室のほうを指差した。一葉は何がなんだか分からず、素直に燦が差した先を見る。

 以前と変わらない、殺風景な寝室。
 燦の寝台。
 そしてその奥に、屏風。

「あっ……」