火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 燦の邸の庭は、以前と変わらず殺風景だった。

 昨冬に何度も夢見をした燦の寝室は、すべての戸が開け放たれていて、中が丸見えになっている。寝室のほうも庭と同じで、以前と何も変わらない。木でできた寝台と、その奥には屏風があった。

 燦の邸を見回して、ほかに人の気配がないことにホッとする。この三月の間に、后を迎えたようには見えなかったからだ。

「一葉。とりあえず、そこに座れ」

 燦が縁側を指差したので、一葉はそこにちょこんと座った。その隣に燦も並んで腰掛ける。

「燦様。私に見せたいものとはなんですか?」
「まあ、待て。一葉、月影の石を持っているか?」
「はい、いつも持ち歩いていますが……」

 一葉は襟元に手をやって、首に掛けていた月影の石を外した。以前、燦に付けてもらった飾り紐はそのまま使っている。

 燦は石を受け取ると、無言で立ち上がった。そして、目の前にある池の縁石の上にそれを乗せる。
 一体どうするつもりだろうかと黙って見守っていると、燦は側に落ちていた別の石を拾い、その手を思い切り振り上げた。

(何……?)

 一葉が止める間もなく、燦はその石を月影の石に振り下ろし、叩き割った。割れた月影の石の破片が飛び散り、池の中にぽちゃんと落ちる。

「嫌だ! 燦様、止めてください!」

 一葉は悲鳴を上げて、燦の腕に飛びついた。
 あれは母の形見の石だ! 月影の石以外に、一葉と母を繋ぐ物は残っていない。

 なぜ燦はこんなひどいことをするのだろう。
 いくら綺羅ノ王とはいえ、これはあまりにも横暴ではないか。

「待て、一葉」
「待てません! これは確かに十六夜の宝物ですが……私の母の形見でもあるんです!」

 今なら、母の気持ちがよく分かる。
 母がなぜこの月影の石を、一葉に託したのか。