「一葉、無事か?」
心の準備が整わない中での、突然の燦との再会だった。
◇
蘇芳姫の墓に手を合わせ、目を閉じる。
真新しい墓石の前には、供えたばかりの花があった。燦が用意したものだろう。
十年前、宝物殿が焼け落ちた際、蘇芳姫と香宵の亡骸は見つからなかったという。見つからなかったというより、二人が亡くなったことを誰も覚えていなかった――というのが正しい。だから、この場所に蘇芳姫は眠っていない。
それでも、今、蘇芳姫が天のどこかから喜んでくれていると思いたい。綺羅ノ国中の人が、蘇芳姫のことを思いだし、悼んでいることを。
頭を上げると、隣に燦が立っていた。
立ち上がろうとする一葉に手を差し伸べたので、一葉はその手を遠慮がちに取った。
「この十年、母の墓はどこにもなかった。ようやくこうして形にできて良かったよ」
「はい。私も十六夜家の者として、蘇芳姫様にお詫びとご挨拶をしたかったので」
「皆が母上のことを思い出すことができたのは、一葉のおかげだ」
「いえ、そんなことは……」
一葉は慌てて首を横に振った。
蘇芳姫の存在を思い出させることができたのは、和暮家による威風の才のおかげだ。一葉は何もしていない。むしろ、誰もが記憶を失った中、燦だけが蘇芳姫の存在を信じ続けていたことが、今に繋がっているのだと思う。
(それでも、私の夢見が少しでも燦様の助けになったのなら、嬉しいけど)
突風が吹いた。墓地の脇に並ぶ桜の木から、花びらが舞い散る。
風を避けるために向きを変えると、蘇芳姫の墓の隣に、もう一つ真新しい墓石があるのに気が付いた。一葉はその墓に一歩近付く。
その墓石に書かれていた名は――久靄香宵。
十六夜家に嫁ぐ前の、母の名前だった。
「……っ! これは、燦様が建てて下さったのですか?」
「ああ。最後の最後まで、母上を守ってくれた香宵姫も一緒にと思ったんだ」
「ありがとう……ございます……」
涙目になって口元を押さえた一葉の頭に、燦が笠を載せた。
「挨拶が済んだら、早く日紫喜の屋敷に戻ろう。お前に見せたいものがある」
心の準備が整わない中での、突然の燦との再会だった。
◇
蘇芳姫の墓に手を合わせ、目を閉じる。
真新しい墓石の前には、供えたばかりの花があった。燦が用意したものだろう。
十年前、宝物殿が焼け落ちた際、蘇芳姫と香宵の亡骸は見つからなかったという。見つからなかったというより、二人が亡くなったことを誰も覚えていなかった――というのが正しい。だから、この場所に蘇芳姫は眠っていない。
それでも、今、蘇芳姫が天のどこかから喜んでくれていると思いたい。綺羅ノ国中の人が、蘇芳姫のことを思いだし、悼んでいることを。
頭を上げると、隣に燦が立っていた。
立ち上がろうとする一葉に手を差し伸べたので、一葉はその手を遠慮がちに取った。
「この十年、母の墓はどこにもなかった。ようやくこうして形にできて良かったよ」
「はい。私も十六夜家の者として、蘇芳姫様にお詫びとご挨拶をしたかったので」
「皆が母上のことを思い出すことができたのは、一葉のおかげだ」
「いえ、そんなことは……」
一葉は慌てて首を横に振った。
蘇芳姫の存在を思い出させることができたのは、和暮家による威風の才のおかげだ。一葉は何もしていない。むしろ、誰もが記憶を失った中、燦だけが蘇芳姫の存在を信じ続けていたことが、今に繋がっているのだと思う。
(それでも、私の夢見が少しでも燦様の助けになったのなら、嬉しいけど)
突風が吹いた。墓地の脇に並ぶ桜の木から、花びらが舞い散る。
風を避けるために向きを変えると、蘇芳姫の墓の隣に、もう一つ真新しい墓石があるのに気が付いた。一葉はその墓に一歩近付く。
その墓石に書かれていた名は――久靄香宵。
十六夜家に嫁ぐ前の、母の名前だった。
「……っ! これは、燦様が建てて下さったのですか?」
「ああ。最後の最後まで、母上を守ってくれた香宵姫も一緒にと思ったんだ」
「ありがとう……ございます……」
涙目になって口元を押さえた一葉の頭に、燦が笠を載せた。
「挨拶が済んだら、早く日紫喜の屋敷に戻ろう。お前に見せたいものがある」

