この丘に日紫喜家の墓地があると聞いている。
(少し休んでから、墓地の入口を探そうかな)
一葉が一息ついていると、都のほうから数人の男が坂を登ってくるのが見えた。大きな荷を背負っているので、都の商人かもしれない。
墓地の入口がどこにあるのか知っているかもしれないと、一葉は立ち上がって声をかけた。
「すみません! このあたりに墓地の入口があると聞いたのですがご存知ですか?」
「墓地? ……ああ、知っているよ」
「良かった! 今からお参りに行くのですが、道が分からなくて」
「そうか。じゃあ、連れて行ってやるよ」
あっさり了承したと思うと、男たちは一葉を取り囲むようにして立った。相手の人数は三人。前方と左右を囲まれ、一葉の後ろは丘の斜面だ。
失敗したかもしれない……と思った。
これまでの一葉は、男装をしていた。だから破落戸の類に絡まれることは少なかった。しかし、今の一葉はどこからどう見ても女。しかも一人旅の途中である。
ここで襲われて万が一のことがあっても、旅人ならば不運な遭難で済まされてしまう。人気のない山道で、柄の悪そうな男たちにわざわざ話しかけてしまったことを激しく後悔した。
(……男装って、意外と便利だったんだな)
いつの間にか、あれだけ一葉を苦しめた男装に抵抗がなくなっている自分に気付き、おかしくなって笑いが込み上げる。しかし、今は面白がっている場合ではない。
「墓地に連れて行ってやるからこっちに来いよ」
「いえいえ、やっぱり結構です。自分で探してみます。なんだか別のところに連れて行かれそうですし……」
笑って誤魔化そうとしたが無駄だった。
男の一人が、一葉の手首を掴んで引いた。一葉が体勢を崩して転びそうになると、ほかの二人も一葉の腰や腕に手を伸ばしてくる。
吐き気がするほどゾッとして、一葉は身を捩った。
「いやっ! 放してください!」
「墓地に行くだけだって」
「自分で行くって、言っているでしょ! とにかく放して」
「――そうだ、すぐに放せ」
一葉の言葉の後に、背後から低い声がした。破落戸の男たちの声ではない。一葉に絡んできた男たちはその声を聞き、怯えた目をして後退る。
「急にどうしました? あれ?」
男たちは思いのほかあっさり引き下がり、一目散に坂を走って逃げていく。何が起こったのかと振り向くと、一葉の目の前には黒髪の男が立っていた。その手には、炎のようなものが揺れている。
(炎武の才……!)
この才を使えるのは、ここ綺羅ノ国では限られた者だけだ。
「燦様!」
(少し休んでから、墓地の入口を探そうかな)
一葉が一息ついていると、都のほうから数人の男が坂を登ってくるのが見えた。大きな荷を背負っているので、都の商人かもしれない。
墓地の入口がどこにあるのか知っているかもしれないと、一葉は立ち上がって声をかけた。
「すみません! このあたりに墓地の入口があると聞いたのですがご存知ですか?」
「墓地? ……ああ、知っているよ」
「良かった! 今からお参りに行くのですが、道が分からなくて」
「そうか。じゃあ、連れて行ってやるよ」
あっさり了承したと思うと、男たちは一葉を取り囲むようにして立った。相手の人数は三人。前方と左右を囲まれ、一葉の後ろは丘の斜面だ。
失敗したかもしれない……と思った。
これまでの一葉は、男装をしていた。だから破落戸の類に絡まれることは少なかった。しかし、今の一葉はどこからどう見ても女。しかも一人旅の途中である。
ここで襲われて万が一のことがあっても、旅人ならば不運な遭難で済まされてしまう。人気のない山道で、柄の悪そうな男たちにわざわざ話しかけてしまったことを激しく後悔した。
(……男装って、意外と便利だったんだな)
いつの間にか、あれだけ一葉を苦しめた男装に抵抗がなくなっている自分に気付き、おかしくなって笑いが込み上げる。しかし、今は面白がっている場合ではない。
「墓地に連れて行ってやるからこっちに来いよ」
「いえいえ、やっぱり結構です。自分で探してみます。なんだか別のところに連れて行かれそうですし……」
笑って誤魔化そうとしたが無駄だった。
男の一人が、一葉の手首を掴んで引いた。一葉が体勢を崩して転びそうになると、ほかの二人も一葉の腰や腕に手を伸ばしてくる。
吐き気がするほどゾッとして、一葉は身を捩った。
「いやっ! 放してください!」
「墓地に行くだけだって」
「自分で行くって、言っているでしょ! とにかく放して」
「――そうだ、すぐに放せ」
一葉の言葉の後に、背後から低い声がした。破落戸の男たちの声ではない。一葉に絡んできた男たちはその声を聞き、怯えた目をして後退る。
「急にどうしました? あれ?」
男たちは思いのほかあっさり引き下がり、一目散に坂を走って逃げていく。何が起こったのかと振り向くと、一葉の目の前には黒髪の男が立っていた。その手には、炎のようなものが揺れている。
(炎武の才……!)
この才を使えるのは、ここ綺羅ノ国では限られた者だけだ。
「燦様!」

