「うわあ! 綺麗!」
都を一望できる丘の上で、一葉は思わず声を上げた。
つい数か月前までは雪で白一色に染まっていたのが嘘のように、見下ろす景色は春真っ盛り。
丘の斜面には薄紅色の桜がいっぱいに咲き誇り、鮮やかな新緑との対比が美しい。町では祭りが行われているようで、楽器の音色まで聴こえてくる。
久靄領を発ったのは、三日前だ。旅の疲れが溜まっているはずなのに、景色を見ているうちに自然と足が軽くなる。
一葉は誰もいない細い山道を、鼻歌を歌いながら進んだ。
一葉が都を訪れることを、燦には伝えていない。碧李領で別れた時に「戻って来い」と言われたのに、行き先も告げず黙って姿を消したことが心苦しくて、どうしても文を出せなかった。
そもそも、燦はもう一葉のことなんて忘れているかもしれない。
王としてやるべきことは山積みであろうし、もしかしたら今頃もう后を迎えているかも。
もしそうなら、一葉は燦の幸せを邪魔したくない。
(前のように燦様の従者として仕えるのは無理でも、せめて都で暮らしたいな)
桔梗姫のおかげで、一葉は使用人としてどこでもやっていけるくらいには経験を積んだ。これまではできなかった学問にも触れさせてもらえたし、女として覚えておくべき化粧や着付けも学んだ。
都には五主家の別邸もある。主家の縁戚や名門商家のお屋敷も多い。頑張って探せば、一葉の働き口は見つかるだろう。
(そろそろ、休憩しようかな)
眼下に日紫喜家の屋敷が見えてきたところで、一葉は少し休むことにした。座るのにちょうどいい切り株を見つけ、腰を掛ける。
顎の下で結んだ紐を解いて笠を脱ぐ。汗ばんだ額に吹く春風が心地いい。
水を一口飲むと、生き返ったように元気が出てきた。
「さて、日紫喜家に向かう前に、蘇芳姫の元にご挨拶に行かなきゃ」
ここに来る前に、久靄の祖父から聞いたのだ。各主家当主からの進言により、十年前に亡くなった蘇芳姫の墓を建てることになったと。
一葉も十六夜家の一員として、蘇芳姫の墓前に手を合わせにいくべきだ。そう思った一葉は、燦に会う前に、蘇芳姫の元を訪ねようと決めていた。
都を一望できる丘の上で、一葉は思わず声を上げた。
つい数か月前までは雪で白一色に染まっていたのが嘘のように、見下ろす景色は春真っ盛り。
丘の斜面には薄紅色の桜がいっぱいに咲き誇り、鮮やかな新緑との対比が美しい。町では祭りが行われているようで、楽器の音色まで聴こえてくる。
久靄領を発ったのは、三日前だ。旅の疲れが溜まっているはずなのに、景色を見ているうちに自然と足が軽くなる。
一葉は誰もいない細い山道を、鼻歌を歌いながら進んだ。
一葉が都を訪れることを、燦には伝えていない。碧李領で別れた時に「戻って来い」と言われたのに、行き先も告げず黙って姿を消したことが心苦しくて、どうしても文を出せなかった。
そもそも、燦はもう一葉のことなんて忘れているかもしれない。
王としてやるべきことは山積みであろうし、もしかしたら今頃もう后を迎えているかも。
もしそうなら、一葉は燦の幸せを邪魔したくない。
(前のように燦様の従者として仕えるのは無理でも、せめて都で暮らしたいな)
桔梗姫のおかげで、一葉は使用人としてどこでもやっていけるくらいには経験を積んだ。これまではできなかった学問にも触れさせてもらえたし、女として覚えておくべき化粧や着付けも学んだ。
都には五主家の別邸もある。主家の縁戚や名門商家のお屋敷も多い。頑張って探せば、一葉の働き口は見つかるだろう。
(そろそろ、休憩しようかな)
眼下に日紫喜家の屋敷が見えてきたところで、一葉は少し休むことにした。座るのにちょうどいい切り株を見つけ、腰を掛ける。
顎の下で結んだ紐を解いて笠を脱ぐ。汗ばんだ額に吹く春風が心地いい。
水を一口飲むと、生き返ったように元気が出てきた。
「さて、日紫喜家に向かう前に、蘇芳姫の元にご挨拶に行かなきゃ」
ここに来る前に、久靄の祖父から聞いたのだ。各主家当主からの進言により、十年前に亡くなった蘇芳姫の墓を建てることになったと。
一葉も十六夜家の一員として、蘇芳姫の墓前に手を合わせにいくべきだ。そう思った一葉は、燦に会う前に、蘇芳姫の元を訪ねようと決めていた。

