火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 桔梗姫の言うことはもっともだ。明快で、合理的。

(自分のことは、自分で幸せにする……?)

 もしも一葉が十六夜家のことなど気にせず、自分の幸せだけを考えていいのなら――多分、選ぶ道は一つ。

「……姫様。私は、自分の運命をなかなか受け入れることができず、ずっと逃げていました。でもそんな時、困難にも強く独りで立ち向かう人に出会ったのです」
「あら、やっぱりそういう相手がいるんじゃない。それでそれで?」
「私は、燦様のことが好きです。一緒にいると、私も強くなれるんです。燦様は私のことを守ると言ってくれたけど、私だって燦様を幸せにしたい。心の傷を癒して差し上げたいし、背負った荷を下ろしてほしい」
「その燦様(・・)とやらも、同じことを考えているかもしれないわよ」
「……そうでしょうか」
「私は燦様じゃないんだから知らないわよ! 直接確かめてきなさい」
「直接!?」
「燦様の気持ちは燦様に聞かないと分からないでしょ? こんなところでウジウジしている暇があったら、燦様に会いに行けば? ……ところで燦様って誰よ」

 首を傾げた桔梗姫の表情が面白くて、つい一葉の口から笑いが漏れた。
 一葉の言う燦様(・・)というのが、綺羅ノ王――日紫喜燦であることを知ったら、きっと桔梗姫は顎が外れるくらい驚くのだろう。

(姫様のおかげで、心が軽くなったわ)

 天が一葉を赦してくれるかどうかは分からない。でも、何もせず後悔するより、自分にできることをやったほうがいいに決まっている。
 もしも燦が一葉のことを受け入れてくれるなら、一葉も燦の側にいたい。ようやく自分で自分の気持ちを認めることができた。

「桔梗姫様、ありがとうございます。私、嵐が収まったら一度都に行ってもよろしいでしょうか」
「もちろんよ。あ、お土産もよろしく」
「はい! お任せください」

 一葉は笑顔で頷いた。

 燦が病に罹っていませんように。辛い目に遭っていませんように。
 一葉は燦の姿を目に浮かべ、祈るように目を閉じた。