火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 桔梗姫はもうすぐ想い人に嫁ぐのだろう。だから、この屋敷での一葉の仕事もなくなる。一葉の今後の身の振り方を考えてくれているのだ。
 ほかの奉公先を探せと言って、一葉を追い出すこともできたはず。それなのに、わざわざ嫁ぎ先を世話してくれようとしている。桔梗姫の優しさが身に沁みた。

(でも、私は……)

 石川に嫁げば、幸せになれるのだろうか。
 いや、そもそも一葉が幸せを求めていいのだろうか。

 黙り込む一葉に、桔梗姫は呆れた顔で「うーん」と唸った。

「気が進まないの? お相手があまり好みではなかった?」
「そういうわけではないのです! 石川様はとても優しくて、私のことも大切にしてくださる方だと思います。でも石川様が素敵な方だからこそ、私よりも相応しいお相手がいらっしゃるのではと……」

 一葉が俯く。すると桔梗姫は、明らかに苛立った様子で一葉の顔を睨みつけた。

「もう! いつまでもウジウジと! いい加減にしなさい!」
「ひえっ、き、桔梗姫様?」
「見ているだけで腹が立つわ。どんな辛い過去があるのか知らないけれど、貴方はこれから何十年も生きていかなければいけないのよ? 自分のことは、自分で幸せにするの! 残りの何十年を楽しく生きることを考えなさい!」
「そ、それは仰る通りですが……私が幸せになることを、天は望みません」
「ふざけないで!」

 これまでに見たことのないほどの桔梗姫の勢いに、一葉は気圧されて仰け反った。桔梗姫はそれに構わず、床の上をずいずいと一葉に詰め寄る。

「一葉はまだ十八でしょう? たった十八年で、よくもそんなにウジウジ育ったものだわ。綺羅ノ国にはたくさんの人が暮らしているのだから、天は貴方のことだけ気にしていられない。貴方が幸せになろうが不幸になろうが、天はまったく興味なしよ。さあ言いなさい。本当はどうしたいの? 石川とかいう男が嫌い?」
「嫌いではありません! でも……好きでもありません」
「じゃあ、どんな男が好きなのよ」
「どんな男って……それは、私みたいにウジウジしていなくて、辛いことや困難があっても逃げずに立ち向かっていけるような……そんな強い人のお側にいられたら、嬉しいかも」
「嬉しいかも(・・)……じゃないでしょ? はっきり言いなさい」

 顔からこぼれ落ちそうなほどに目を見開いて、桔梗姫が一葉を見つめる。