火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 前王の后は、風主・和暮家の姫である花緒だ。つまり新王の后は、和暮家以外の三主家から輩出することになる。
 三主家のうち久靄家と烽火家には、十六夜家が覡として入り込み、夢見を任されている。
 が、残りの一主家――海主・碧李家から新王の后が出ると困る。これが、父の心配事だった。

(でも、そんなこと言われたって……)

 都に到着した久遠は早速、父と兄について日紫喜家の屋敷に足を踏み入れた。
 十六夜の里がすっぽり収まるのではないかと思われるほど広大なその屋敷は、四方を高い築垣(ついがき)に囲まれている。更にその壁の内側も、生垣や低い塀でいくつかに区画されていた。

 王の暮らす邸のほかに、家政を担う家令所、衣や雑器を作る職人たちの仕事場などがすべて屋敷の中に揃っている。家令所の横を通り過ぎたあたりには庭が広がっており、案内役の舎人(とねり)がいなければどこに向かえばよいか分からないほどだ。

 五主家による合議は、午後からだという。その前に久靄と烽火と話さねばと、父と兄はさっさとどこかに呼ばれて消えてしまった。
 一人取り残された久遠は、日紫喜家の広大な屋敷の庭で、早速道に迷っていた。

(久靄と烽火に頼んで、碧李輝比佐とかいう当主様に取り次いでもらうつもりかな)

 兄の匠人は、お世辞にも器用な人間とは言えない。輝比佐の弱みを握って上手く操るなどという芸当が、できるわけなかった。

 ただの小間使いとして付いてきた久遠は、(ひる)まで特にすることもない。父から叱られないために、碧李家の動向の一つや二つ探っておこうかとも考えたが、碧李家の主を探しているうちに、屋敷の奥のほうまで迷い込んでしまった。

(そもそも僕は、碧李の当主様のお顔も知らないんだから。見つけられるわけないよ)

 側にあった池のほとりに疲れてしゃがみ込むと、水の中に鯉が泳いでいるのが見える。
 冬が来て池が凍ったら、この鯉はどうなるのだろう。そんな些細なことを考えていると、背後に人の気配がした。

「こんなところで何をしている?」
「え?」