火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 一葉の肩に、ふんわりと袍が掛けられる。燦の匂いがした。

「燦様」
「仕方ない。あの時、碧李の水煙の才がなければ、俺とお前は炎に焼かれていただろう」
「はい。燦様、私を守ってくれてありがとうございました」

 深く頭を下げる。燦は冷たくなった一葉の手を掴み、歩き出す。

「雪は止んだが、今夜も冷えそうだ。早く屋敷に戻ろう」
「でも、僕……私は」

 けじめを付けなければなりません――そう言おうとして、一葉は言葉を呑み込んだ。

 十六夜家の姫として、一葉だけが罪を免れるわけにはいかない。
 燦が祖父に「天が赦しても、王が赦さない」と言ったのと同じで、燦が一葉のことを赦しても、ほかの主家の当主たちは決して赦さないだろう。
 十年間男装をし、蔵に閉じ込められた記憶に苦しんだことが、一体なんの償いとなろうか。

 一葉は、燦の、そして日紫喜家の仇である。
 近いうちに、この温かい手を放す時が来る。

(ただ、今だけは許してほしい)

 一葉は、燦と繋がる左手に力を込める。
 いつの間にか空の雲は消えている。何かを躊躇うように少しだけ欠けた月が、明るく光っていた。