「……っ! 許すも何も、私自身も忘れていたのですから」
「いや、許してほしい。才というものは、その家の者には効きづらいものだ。久靄家の当主である私に、霧中の才は完全にはかかっていなかったはず。もしも私の目が見えていれば、合議の場で一葉の顔を見て、それをきっかけに過去を思い出せたかもしれぬ」
「そうなんですね、だから一葉という名前に聞き覚えがあると仰って……」
そうか、もしかして。
祖父が一葉の名を「久遠」に変え、わざわざ男装させた理由。
それは、もしも一葉が久靄家の者と顔を合わせたとしても、本人であると悟られないようにするためだったのかもしれない。いつぞや日紫喜家で祖父と父の話を立ち聞きした際、「久遠の正体を明かせば、久靄の者に気付かれる」と言っていたような気もする。
(そんな理由で、私は隠されていたのか)
憂いても時はもう戻らない。どんな格好をしていても一葉は一葉だ。
久靄家の当主は、男装姿の奥にある十六夜一葉そのものを見てくれた。そしてそれは、自分の正体が一葉であろうと久遠であろうと好きだ、と言ってくれた燦も同じ。
(はっ……燦様は?)
先ほど祖父を取り押さえた燦を振り返る。
祖父は衛士に引き渡され、父とともに縄で縛られていた。燦はその隣で、火輪剣を祖父に向けたまま立っている。
空の雲が晴れて月が顔を覗かせると、項垂れていた祖父は月を見上げ、そして大声を上げて笑い出した。
その高笑いの不気味さに、その場にいた者たちは手を止めて黙り込む。
「久遠!」
祖父の叫声に、一葉の肩がぴくりと震えた。
「儂と万葉人を追い詰めたつもりか? お前も十六夜家の者であることに変わりはない。……十年だぞ。我々は既に罪を十分すぎるほど償った。せめて十六夜家を主家に戻してもらえるよう、お前が取り計らうのだ」
「お祖父様、まだそんなことを……! 先ほどの威風の才で、十年前の十六夜の罪は暴かれました。十年前、あなたと父上が王后の命を奪った罪は重い。償うのはむしろこれからです!」
「お前が男として生きた十年は、無駄にせよと?」
「……どういうことです?」
「十年前、十六夜家は天意により、未来永劫、男児しか生まれぬ呪いを掛けられた。考えてみろ。お前のほかに誰一人女は生まれておらんだろう?」
「いや、許してほしい。才というものは、その家の者には効きづらいものだ。久靄家の当主である私に、霧中の才は完全にはかかっていなかったはず。もしも私の目が見えていれば、合議の場で一葉の顔を見て、それをきっかけに過去を思い出せたかもしれぬ」
「そうなんですね、だから一葉という名前に聞き覚えがあると仰って……」
そうか、もしかして。
祖父が一葉の名を「久遠」に変え、わざわざ男装させた理由。
それは、もしも一葉が久靄家の者と顔を合わせたとしても、本人であると悟られないようにするためだったのかもしれない。いつぞや日紫喜家で祖父と父の話を立ち聞きした際、「久遠の正体を明かせば、久靄の者に気付かれる」と言っていたような気もする。
(そんな理由で、私は隠されていたのか)
憂いても時はもう戻らない。どんな格好をしていても一葉は一葉だ。
久靄家の当主は、男装姿の奥にある十六夜一葉そのものを見てくれた。そしてそれは、自分の正体が一葉であろうと久遠であろうと好きだ、と言ってくれた燦も同じ。
(はっ……燦様は?)
先ほど祖父を取り押さえた燦を振り返る。
祖父は衛士に引き渡され、父とともに縄で縛られていた。燦はその隣で、火輪剣を祖父に向けたまま立っている。
空の雲が晴れて月が顔を覗かせると、項垂れていた祖父は月を見上げ、そして大声を上げて笑い出した。
その高笑いの不気味さに、その場にいた者たちは手を止めて黙り込む。
「久遠!」
祖父の叫声に、一葉の肩がぴくりと震えた。
「儂と万葉人を追い詰めたつもりか? お前も十六夜家の者であることに変わりはない。……十年だぞ。我々は既に罪を十分すぎるほど償った。せめて十六夜家を主家に戻してもらえるよう、お前が取り計らうのだ」
「お祖父様、まだそんなことを……! 先ほどの威風の才で、十年前の十六夜の罪は暴かれました。十年前、あなたと父上が王后の命を奪った罪は重い。償うのはむしろこれからです!」
「お前が男として生きた十年は、無駄にせよと?」
「……どういうことです?」
「十年前、十六夜家は天意により、未来永劫、男児しか生まれぬ呪いを掛けられた。考えてみろ。お前のほかに誰一人女は生まれておらんだろう?」

