「そうだ。耀王の弟君はいまだ独り身。新王として即位すれば、日紫喜家以外の四主家から急ぎ后を迎えることになる。もしもその后が碧李家の姫となれば、我々はどうなる?」
「……どうなりますかね?」
兄がこくりと首を横に傾げた。
その呑気な様に、父は憤怒して立ち上がる。
「馬鹿者! 我が家の名目を保つため、なんとしても碧李家に入り込まねばならぬ。五主家と同様に才を持つ十六夜が、これ以上、主家から遠ざけられてなるものか!」
「し、しかし父上……碧李家の現当主は、面倒な御方なのです。碧李輝比佐殿といって、何度屋敷を訪ねても門前払い。それどころか屈強な門番に力いっぱい突き飛ばされ、池に投げ込まれそうになったことも……」
「真正面から行ってどうする! 碧李家の当主が厄介者であることなど、周知の事実。輝比佐殿の弱みを握るとか、少しは頭を使え」
父に怒鳴られ、兄はがっくりと肩を落とした。
「……とにかく。今後のことについて話し合うため、五主家の当主が都に集まるそうだ。我々もその合議の場に同席を許してもらっている。この機会を逃してはならぬ」
父は怒りを堪え、ふんと鼻を鳴らして座った。
「あの、僕はどうすれば……」
久遠は父の顔色を窺いながら尋ねた。
父も兄も都へ出向くとなれば、この十六夜の屋敷の留守を預かるのは、義母と久遠のみとなる。やんちゃな甥っ子たちの世話を押し付けられ、ここぞとばかりにいびられるに違いない。
かと言って、覡として半人前の久遠が都に同行したところで、大して役に立つこともない。
父は眉間にしわを寄せて少し考え、呆れたように息を吐く。
「久遠も都に同行せよ。だが、決して儂と匠人の邪魔はするな」
「……はい、かしこまりました。父上」
(都か……)
床に額が付くほど深く頭を下げながら、まだ見ぬその場所に思いを馳せる。
綺羅ノ都――政、商い、文化、人、すべてが集まる中心地。
しかし久遠にとって、都はあまりにも遠い。華やかな光景を思い浮かべて心躍らせることもなく、久遠は父と兄に聞かれぬよう、小さくため息をついた。
◇
古来、日紫喜家を除く四主家は、天の怒りを避けるため「二代続けて同じ家から后を輩出しない」という決まりを作った。
今も、その決まりは生きている。
「……どうなりますかね?」
兄がこくりと首を横に傾げた。
その呑気な様に、父は憤怒して立ち上がる。
「馬鹿者! 我が家の名目を保つため、なんとしても碧李家に入り込まねばならぬ。五主家と同様に才を持つ十六夜が、これ以上、主家から遠ざけられてなるものか!」
「し、しかし父上……碧李家の現当主は、面倒な御方なのです。碧李輝比佐殿といって、何度屋敷を訪ねても門前払い。それどころか屈強な門番に力いっぱい突き飛ばされ、池に投げ込まれそうになったことも……」
「真正面から行ってどうする! 碧李家の当主が厄介者であることなど、周知の事実。輝比佐殿の弱みを握るとか、少しは頭を使え」
父に怒鳴られ、兄はがっくりと肩を落とした。
「……とにかく。今後のことについて話し合うため、五主家の当主が都に集まるそうだ。我々もその合議の場に同席を許してもらっている。この機会を逃してはならぬ」
父は怒りを堪え、ふんと鼻を鳴らして座った。
「あの、僕はどうすれば……」
久遠は父の顔色を窺いながら尋ねた。
父も兄も都へ出向くとなれば、この十六夜の屋敷の留守を預かるのは、義母と久遠のみとなる。やんちゃな甥っ子たちの世話を押し付けられ、ここぞとばかりにいびられるに違いない。
かと言って、覡として半人前の久遠が都に同行したところで、大して役に立つこともない。
父は眉間にしわを寄せて少し考え、呆れたように息を吐く。
「久遠も都に同行せよ。だが、決して儂と匠人の邪魔はするな」
「……はい、かしこまりました。父上」
(都か……)
床に額が付くほど深く頭を下げながら、まだ見ぬその場所に思いを馳せる。
綺羅ノ都――政、商い、文化、人、すべてが集まる中心地。
しかし久遠にとって、都はあまりにも遠い。華やかな光景を思い浮かべて心躍らせることもなく、久遠は父と兄に聞かれぬよう、小さくため息をついた。
◇
古来、日紫喜家を除く四主家は、天の怒りを避けるため「二代続けて同じ家から后を輩出しない」という決まりを作った。
今も、その決まりは生きている。

