火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「まず、碧李殿じゃ」

 祖父は輝比佐を指差した。もう、自暴自棄になっているように見える。

「……我が碧李家が、何か?」
「碧李殿は、五主家の中で碧李家が最も強い才を持つと信じているのだろう? 貴家の水煙(すいえん)の才を打ち消す力を持つ主家はない、と」
「十六夜殿。それがどうかしたのか? 我が碧李家の水煙の才が、五主家の中で最も優位であることは、綺羅の民なら誰でも知っていることだ」
「五主家では、な。各主家の才がお互いに優劣関係を持つ中、なぜ水煙の才だけが特別なのか、考えたことはないのか?」

 祖父はにやりと笑った。
 そして口元の血を手の甲で拭い、父の手を振り切ってふらふらと祭壇に向かう。

 祭壇の上には、五主家の宝物が並んだままになっている。

「十六夜殿! 何が言いたい?」
「はははっ! 碧李殿よ。今は偉そうにふんぞり返っていても、お前の地位は危ういぞ! 水煙の才を打ち消す、海主に勝る力の存在を教えてやろう!」
「少し落ち着かれよ。そもそも、十六夜家がこの場にいることがおかしいのだ。誰か、この者たちを連れて行け!」

 輝比佐の呼びかけに応じ、控えていた衛士たちが祭壇の周りを取り囲む。
 しかし祖父はそれに構わず、祭壇の上にある火輪剣に手を伸ばした。

(まただ! 火輪剣を奪われてしまう!)

 これでは十年前と同じだ。
 祖父を止めるために立ち上がろうとすると、一葉の腕を誰かが後ろから掴んだ。燦だ。

「燦様! 花緒様に付き添ってらっしゃったのでは?」
「問題ない。少し眩暈がしただけのようだ。(じき)に花緒もここに来るだろう。ところで……あれが一葉の祖父か?」

 燦の視線の先を見る。一葉の手首を掴む燦の手から、震えが伝わってくる。

「はい……父の隣にいるのが、祖父の十六夜是誓です」
「……そうか」

 かすれた声。
 燦の気持ちは痛いほど分かる。