火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「――王が崩御(ほうぎょ)した」

 父が、声低く言った。

「王とは……日紫喜(ひしき)耀(よう)様のことで?」

 兄の匠人(たくと)が遠慮がちに尋ねる。

「ほかに誰がいる」
「しかし、父上。耀王(ようおう)は、まだ王位に就いたばかりではないですか」
「病が急に悪化したらしい。昨年、大嵐があったのを覚えているか? あれは耀王が病に臥したことに対する天の怒りだ。あの頃から王は、表に顔を見せることも少なくなったからな」

(日紫喜の王が崩御……)

 それでなのか、と久遠は納得した。

 五主家の中でも日紫喜家は、「陽」を司る陽主。
 陽主であり、綺羅ノ王でもある日紫喜耀が崩御したから、ここ数日は曇天(どんてん)が続いているのだろう。花緒という女性に出会った日の翌朝に太陽を見たのが最後で、そこからもう五日は曇り空が続いている。てっきり冬が近いせいだと勘違いしていた。

 久遠にとって、都におわす王は遠い存在だ。王の崩御を悲しむよりも、曇天のせいで洗濯が乾かないことのほうが、よほど大きな問題だった。

「父上、新王はもう決まったのですか?」

 久遠が口を開くと、父と兄は穴があくほど強く久遠を睨みつけた。お前は生意気な口をきくな、という牽制である。

「若き耀王には子がおらぬ。……となれば、耀王の弟二人のどちらかが、新王として即位するしかあるまい。下の弟君はまだ子ども。上の弟君が継ぐことになろう。(わし)がお前たちを呼んだのは、その件だ」

 久遠はごくりと息を呑み、兄と目を見合わせた。

「我が十六夜家は夢見の才を使い、各主家に仕えてきた。しかし五主家のうち、まだ日紫喜家と碧李(あおい)家には入り込めておらぬ」
「そうですね。和暮(わぐれ)烽火(のしろ)久靄(くもや)の家には随分前から夢見に伺っていますが」