火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 項垂れていた和暮家の当主の体が、ぴくりと動いた。
 何かに()りつかれたかのようにふらふらと立ち上がったかと思うと、祖父にゆっくりと近付く。そして、いきなり拳で祖父を殴りつけた。
 祖父の体は跳ね上がり、泥の上に滑り込むようにして倒れる。

 倒れた祖父に更に飛び掛からんとする和暮を、横から烽火が腕を掴んで止めた。

「十六夜よ! いい加減なことを言うな! 我が娘の花緒をなんだと思っているのだ!」
「和暮殿……! 本当なのです、花緒殿は生きておられる!」
五月蠅(うるさ)い! お前の目の前で、花緒は海に落ちたではないか! お前が娘の痣を確かめるなどと、馬鹿なことを言うからこんなことに……!」

 和暮は烽火の腕を振り切って、祖父に馬乗りになった。
 側にいた父が、祖父に覆いかぶさるようにして邪魔をする。

「烽火殿、烽火殿! お助けください!」

 父が烽火に助けを求めた。が、烽火もそれ以上は動かなかった。

「……十六夜殿は覡であろう? 夢見の才があるというのに、燦王の運命を知らなかったと申すのか?」

 烽火の声は沈んでいる。
 祖父や父の側に付いていたはずの和暮と烽火も、既に十六夜に愛想を尽かしたようだ。

「烽火殿……?」
「十六夜よ。お前たちの夢見を聞いて、我が烽火家は孫を燦王の后にすると申し出ることにしたというのに……! 結局、后は和暮家の姫に決まった上、燦王は命を落とした。本当にお前たちには、夢見の才があるのか?」
「それは……」

 祖父は言葉を濁した。

 碧李、和暮、そして烽火。三家の当主が祖父たちを睨みつける。
 目の見えない久靄家の当主は、少し離れた場所で事の成り行きを静観していた。

(これで、十六夜の側に付く者はいなくなったか)

 一葉は胸を撫でおろした。だが、これだけでは終われない。
 十年前の十六夜の罪を明らかにするのは、今だ。
 一葉が木の陰から飛び出そうとした、その時。

 口元から血を流していた倒れていた祖父が、大きく高笑いを始めた。
 これには当主たちもぎょっとして、顔を見合わせる。

「主家の当主たちよ。何も知らぬくせに、十六夜のことを覡、覡と……五月蠅いのは我々ではなく、皆さまでは?」

 祖父は和暮の当主を突き飛ばし、地面に手を突いて起き上がる。父の手を借りて立ち上がると、主家の当主たちの顔を舐めるように順に眺めた。