火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 霖が綺羅ノ王となれば、碧李家は外戚として最も強い影響力を持てる。
 五主家の中で一番強い力を持つ碧李家が、政の実権まで握ることになる。

(自分の手を汚さず、燦様と花緒様を退けることができたんだ。輝比佐様はご満悦だろうな)

 だから、王と后を捜せと騒ぐ十六夜を無視して、碧李家は誰も助けをよこそうとしなかったのだ。二人が命を捧げたから天の怒りが収まった――などという、もっともらしい理由を付けて。

 まあ、そのおかげで久遠は記憶を取り戻すための時を稼げたのだから、かえって良かったのであるが。

(十年前の十六夜の悪事を、僕はこの場で明らかにする)

 久遠は木の陰に縮こまり、その場に姿を現す機を窺った。

 先ほど、花緒は久遠に威風(いふう)の才を使った。お腹の子に(さわ)ってはいけないからと断ったのに、花緒は聞き入れなかったのだ。

 ――絶対に大丈夫。お腹の子が私を必ず守ってくれるから。
 花緒はそう言って、以前久遠に才を使った時と同じように静かに目を閉じた。呪文のようなものを唱えると、久遠を風の渦が包んだ。

 前回とは比べものにならないほどに強い風の渦。久遠は目を開けていられなかった。
 同時に、激しい頭痛に襲われる。風に逆らって両手を上げ、頭を抱えた――その時。
 まるで、空の雲が風に流れていくように、久遠の頭の中にかかった靄が晴れていくのが分かった。
 靄は徐々に薄くなり――そして久遠は、はっきりと思い出すことができたのだ。

 久遠の本当の名前は、十六夜一葉(いちは)であること。
 そして、久靄家から十六夜家に嫁いだ香宵(かよい)姫の一人娘であり、夢見の才と霧中の才の両方を受け継いだ者であることを。

(お母様から月影の石を渡された時のことも、ちゃんと思い出した。これでようやく、香宵姫のことをお母様と呼べる)

 一葉は首に下げた月影の石を強く握った。

「――十六夜殿。今後のことは五主家の当主が定める。貴殿は里にお戻り願いたい」

 輝比佐が冷たく言い放つ。
 碧李家は元々、十六夜家を信用していない。いくら食い下がったとて、輝比佐は祖父の話など聞き入れないだろう。
 だが、祖父も諦めが悪い。

「今後のこととは? まさか、その幼子(おさなご)を次の王に据えるというわけではありますまい!?」
「燦王も后もいなくなれば、(りん)様が王となられるのは当然では?」
「まだ、お二人が亡くなったとは限りませんぞ! 少なくとも花緒殿はご存命じゃ。燦王の後継は霖様ではない。次の王は、和暮家の孫だ!」