火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

 燦にとって、一葉は親の仇なのだ。

(それでも僕は……本当の気持ちを、言ってもいいのだろうか)

 連子窓の連子子(れんじこ)の隙間から夕日が差した。
 燦の黒髪が茜色に染まる。
 十六夜の里で燦と出会った時にも、この髪の色を美しいと感じたのを思い出す。すると久遠の口から、ようやく言葉が溢れ出した。

「僕が女であることを、燦様に打ち明けてしまいたい――燦様と出会ってから、僕は何度もそう考えました。だから僕も本当は、燦様のことを……好きなんだと思います」
「久遠」
「……ですが」

 久遠は一度目を閉じ、震える息を整え――そして、燦を見た。

「十六夜久遠は燦様のことを好きでも、十六夜一葉はどうなのか分からない。威風の才を受けて、過去を取り戻す覚悟はできていたはずなのに……怖くなりました」
「過去を思い出すのが、怖いと?」
「はい。祖父と父は僕を蔵に閉じ込め、女として生きる道を奪った。そして、母である香宵姫の命も。だからぼくは、二人を追い詰めるために過去を取り戻そうと思ったのです。でも、それは同時に、僕が燦様の仇であることを確かめることにもなります」
「お前が俺の仇? 俺がそんな風に考えるわけがない」
「それはまだ分かりません。だから……まずは、失った記憶を取り戻します」

 久遠の言葉に、燦も頷いた。
 時は既に夕刻。早く婚礼の儀の場に戻らなければ。
 燦と久遠は手を握り合ったまま、花緒の待つ隣室へ続く戸を開けた。