火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

「――私の威風(いふう)の才で、記憶が戻った?」
「はい、花緒様。そうなんです!」

 砂浜から崖を登り、燦と久遠は花緒の部屋に転がり込んだ。

 花緒は久遠と入れ替わった後、碧李(あおい)家の屋敷に身を隠している。
 久遠と燦が海に落ちて、婚礼の場は大混乱となっているのだろう。まだ誰も碧李家の屋敷に戻ってはいないらしい。

「燦と久遠の言うことも分かるわ。五主家の才には相互に優劣関係がある。和暮(わぐれ)家の威風の才には、久靄(くもや)家の霧中(むちゅう)の才を打ち消す力がある。……と言っても、実際に主家同士が才をぶつかり合わせる機会なんてないから、それが本当の話かどうかは知らないのだけど」
「花緒様の才によって、僕は実際に記憶を取り戻したのです。でも、それはほんの一部で……お願いです。僕はすべての記憶を思い出したい。もう一度、威風の才を使ってくれませんか」

 久遠は床に頭を付けて花緒に頼んだ。
 燦も続いて頭を下げる。

 ――十六夜の謀略を暴きたい。
 今頃、祖父は火輪剣(ひのわのつるぎ)を手に入れるために色々と画策しているはずだ。

 婚礼の儀のために、火輪剣は碧李領に運んできた。ほかの主家の宝物とともに、あの断崖絶壁の祭壇に並んでいる。
 祖父と父が火輪剣に手を出す前に、十六夜の十年前の謀略を(つまび)らかにしなければならない。

 しかし久遠と燦がいくら頼んでも、花緒の顔は晴れない。
 しばらく続いた沈黙の後、花緒は「ふう」と息を吐いた。

「もちろん、才を使うことは構わないわ。でもね……もし久遠の言うことが真実だというなら、十年前に霧中の才を使った香宵(かよい)姫という方は、かなり強い才の持ち主でいらっしゃったはず。だって、綺羅(きら)中の人々から記憶を消したのでしょう? そんな広範囲に才を使えば、その場で動けなくなって意識を失ってもおかしくないもの」
「才を使うと、そんなことに……?」