「――宮崎理緒さん、16歳、女性。
診断は拡張型心筋症。
他院での加療を経て、4月より当院に転院・入院となりました」
スクリーンに映し出されたエコーの所見を見つめながら、
喉の奥が少しだけ痛む。
レーザーポインタを動かす手の震えを悟られないように、
意識して動きをゆっくりにした。
「入院時、著明な心拡大を認めました。
LVEFは20%前後。
利尿薬とβ遮断薬投与で一時的に改善はしましたが、
現在も息切れと浮腫が持続しています」
自分の声が、他人の声みたいに聞こえる。
冷静に。客観的に。
そう繰り返しながら、感情を切り離していく。
「現時点で薬物療法の限界が見えており、
将来的には補助循環装置、あるいは心臓移植が必要になる可能性があります。
ご家族にもその旨を説明済みですが、ドナー登録にはまだ至っていません」
背後で紙をめくる音。
誰かのペンが、淡々とメモを取る音。
そのすべてが、遠い。
――“家族”。
そう言った瞬間、胸の奥が軋む。
あの少女の母親の泣き顔が、頭をかすめた。
「……今後は、在宅復帰を一時的にでも視野に入れながら、
QOLを損なわない形で治療方針を検討していきます」
そこまで言って、息を整える。
……これでいい。
正しい説明だ。
誰にも責められない。
――でも。
スクリーンに映る理緒の心臓の輪郭が、
どこか、自分の胸の中の痛みと重なって見えた。
「以上です」
軽く会釈してレーザーポインタを下ろす。
教授の声が返ってくる。
「うん、御崎くん。よくまとめてる。
ただ、家族説明は慎重にね。感情移入は禁物だ」
「……はい」
言葉では答えた。
けれど、心の中では――
“感情を抜いたら、俺は医者じゃなくなる”
そんな反発が、微かに疼いていた。

