おやすみなさい、いい夢を。




でも今は――
“救う”って、何なんだろうな。

手を伸ばせば、誰かが助かる。
そんな単純な世界じゃないことぐらい、もう嫌というほど知っている。

治療しても、救えない命がある。
努力しても、報われない患者がいる。
自分がどれだけ願ったところで、現実は平等じゃない。

……以前の俺は、もっとまっすぐだったように思う。
誰かの涙を見たくなくて、ただそれだけで医者になろうとしていた。
水瀬や他の同期と深夜まで図書館に残って勉強するのも全く苦に思わなかった。
それが今じゃ、“無力さに慣れる方法”ばかりを考えるようになっている。

“救う”という言葉を口にするたび、
それがもう、綺麗ごとにしか聞こえなくなっていく。

机の端には、疲れた手の跡が残っていた。
もう何年も、休むという感覚を忘れている。

窓の外では、夜明け前の街が灰色に滲んでいた。
誰も知らないところで、今日も一人、命が消えていく。
それでも明日は来るし、俺はまた白衣を着て病院へ行く。

それが、生きるってことなんだろう。
それが、“救う側”でい続けるってことなんだろう。