音に溺れる




(……早く大人になりたい)

誰もが通るはずのありふれた通過儀礼が、今の俺には途方もなく高く、分厚い壁に見える。

堂々巡りの自己嫌悪から無理やり気を紛らわせるように、俺はスマートフォンを操作する指を走らせ、無意識に検索ブラウザを開いた。

目に飛び込んできたのは、煌々と光る画面。

他の誰でもない、間違いなく俺自身の検索履歴のはずなのだが、一番上に表示されたその文字列を見て、俺は文字通りフリーズした。

『コンドーム 付け方』

……今すぐ俺の脳内のタスク一覧から、完全消去したい履歴ナンバーワンだった。

誰に見られたわけでもないはずなのに、顔が一気に熱を持つのを感じる。

俺は逃げるようにスマートフォンの電源を乱暴に落とし、きつく目を閉じた。

(……思春期なんて、クソだ)

いや。厳密に言えばもう20歳になった俺は思春期では無いんだろうが。
……生物としての本能をどう手懐ければいいかなんて、未だに分かってない。相手を本当の意味で大事にするってどういうことかも。

(何だっけ……まず、そうだ……相手を傷つけないように、爪を切って……それから……)

こんな電車の中で、マニュアルの工程を一つ一つ真面目に反芻してしまっている自分が、ひどく滑稽で、情けなくて、泣きたくなった。

ーーもっと。上手くやりたいのに。

水瀬との関係も。バンドの舵取りも。大学の殺人的な量を押し付けてくる課題も。そして、自分自身の醜い感情のコントロールすらも。

全部、計算通りに、完璧に、上手くやらなきゃ、いけないのに。

電車に揺られながら立ち尽くす俺の頭の中は、どこにも吐き出せない情熱と、処理しきれないエラーコードでぐちゃぐちゃに埋め尽くされていた。