机に突っ伏したまま、意識が泥のように沈んでいくのを感じていた。
(……ツアーに合わせて……さすがに何か一曲は、作らないと……)
明日提出するレポートの残骸や、薬理学の小テスト、ライブハウスとの契約書の束が視界の端を掠めるが、肉体の限界が俺の理性を強制的にシャットダウンさせていく。
微睡の中で、不思議な感覚があった。
まるで、深く冷たい水の底へゆっくりと落ちていくような。
いや、違う。これはーー音の海に溺れる感覚だ。
アコースティックギターの柔らかな残響、マサキとサトルの刻む心音のようなビート、そして、夜に溶けるようなシキの歌声。
それらが形を持たない波となって、限界まで張り詰めていた俺の神経を優しく、ひんやりと包み込んでいく。
……心地いい。
常に「次」のリスクを計算し、予期せぬバグに怯え、誰にも見せない孤独な玉座でプレッシャーに震えていた俺にとって。
自分たちで創り上げたその音の奔流の中だけが、唯一、無防備に呼吸を許される絶対的に安全な箱庭だった。
でも。
その心地よさに身を委ねながらも、何かが決定的に足りないことに気づく。
この波は、まだ未完成だ。
漂いながら、何かのピースがはまるのを、じっと待っている。
俺が組み上げる数式を。輪郭を持たないこの不確かな海に、明確な道筋を引き、彼女の声を最も美しく響かせるための、絶対的な座標を。
ーーそうか。
待っているのは、自分のピアノのリフだ。
深い海の中で、最初の鍵盤を叩く幻覚が閃いた瞬間。
俺は弾かれたように顔を上げ、傍らに放り出していたノートを乱暴に引き寄せ、たった今ふっと思い浮かんだワンフレーズを忘れないように乱雑に書き殴った。

