「サビの3小節前からやろう。シキはさっき言った通り抜き気味で、サトルはもう少しベース主張していい」
日向がキーボードに指を添えたまま端的にそう告げると、サトルが「おう」と短く返事をしてベースのネックを握り直す。
ドラムセットの奥で、正樹が軽く頷き、スティックを高く掲げて交差させた。
カッ、カッ、カッ。
鋭い木の音が『1-2-3』とリズムを刻む。
私はギターのピックをぎゅっと握りしめ、マイクスタンドとの距離を測りながら小さく息を吸い込んだ。
カウントが終わった瞬間、狭いスタジオの中で音が爆発する。
正樹の重く正確なキックに、サトルのうねるような低音が絡みつき、日向のキーボードが鮮やかに空間を彩っていく。そこに私が鳴らすギターのコードと、喉から放った声が重なる。
鼓膜を震わせる轟音の中、バラバラだった四つのピースがバチッと噛み合い、ひとつの巨大なうねりとなってぶつかり合う。
――全部が一つになる。私の大好きな瞬間だ。
腹の底から声を張り上げながら、私はマイク越しに日向の横顔を盗み見た。
彼は真剣な眼差しで鍵盤を見つめながら、確かな熱を持って音を紡ぎ出している。
音楽は好きだ。
けれど、日向の作る曲は、特別に、本当に好きだ。
緻密で、冷たくて、だけどどこかにどうしようもない熱を秘めているこのメロディ。
そのド真ん中で、他の誰でもない『私』が彼の曲を歌える。その事実が、胸が痛くなるほど、たまらなく嬉しかった。

