その冷たく強気な言葉に、私の中の怯えが塗り潰されていく。
こんな強大な相手を前にしても、彼は一歩も引いていない。最初から、勝つつもりでこのスケジュールを組んだのだ。
……そう、思っていた。
「ーー……」
ふと、視線が下がった先で。
言葉を切り、マーカーを握りしめたまま下ろされた日向の左手が。
微かに、けれどはっきりと、小刻みに震えているのに気づいてしまった。
息が止まりそうになった。
限界までスケジュールを詰め込み、睡眠時間を削ってまで、こんな雲の上の先輩たちとの対バンを一人で取り付けてきたのだ。
失敗すればバンドは終わるかもしれない。莫大な赤字を背負うかもしれない。そんな途方もないプレッシャーと恐怖を、彼が感じていないはずがなかった。
本当は、誰よりも彼自身が一番怖いはずなのに。
震える手を無理やり押さえつけながら、私たちを安心させるために、ただリーダーとしての仮面を被って虚勢を張ってくれているんだ。
誰も立ち入れない絶対的な権限と計算式で、このバンドのすべてを支配する無敵のリーダー。
今更になってようやく思い知らされる。
誰も彼の思考のスピードには追いつけない。誰も彼の抱えるプレッシャーを本当の意味で分かち合うことはできない。
自らの身を削り、感情というノイズを殺してまで、彼が一人で築き上げた完璧なシステム。
彼の座る巨大な玉座の背後に垣間見えた、その底知れぬ孤独にーー
私はただ、畏怖の念を抱かざるをえなかった。

