「うん。じゃあツアー名称としては、シキの案の『Synesthesia(共感覚)』に決定で」
日向がホワイトボードのその英文の前に、黒のマーカーでキュッと丸をつけた。
迷いのない綺麗な線だった。彼がかつて私に教えてくれた言葉が、こうして私たちの初めての全国ツアーの看板になる。その事実だけで、少しだけ胸の奥が熱くなった。
「これでもう、今日フライヤーも発注かけるから変更は無しで。前にも伝えた通り、開始は12/10の仙台。ハコのキャパは180人。
今の所、5割は埋まってるがまだまだ安心できない状況だから、各自SNSで宣伝よろしく」
振り返った日向は、いつものように理路整然と、けれどどこか少しだけ楽しそうによく通る声で指示を出しながら、ホワイトボードに綺麗な文字を書き連ねていった。
【Sound Jam 1st Tour "Synesthesia"】
12/10 仙台 w/ night hot cocoa
12/25 福岡 w/ sentimental feelings
1/17 北海道 w/ 音牧場
2/10 京都 w/ 澪標
3/15 名古屋 w/ morfine
3/24 東京 w/ サマーレモネード
書き出された対バン相手のラインナップを見て、私は思わず息を呑んだ。
サマーレモネードは、確かに今のインディーズ界隈では知らない人はいないであろう大人気ガールズバンドだ。
けれど、京都の『澪標』は和のテイストを取り入れた曲調のユニークさで一気に注目を浴びている実力派だし、福岡の『sentimental feelings』に至っては、最近人気のアニメ映画の主題歌を担当したことで話題沸騰中の、飛ぶ鳥を落とす勢いのバンドだ。
正直、バンドを始めて一年が経ったばかりの私たちにとっては、あまりにも格上で、大先輩ばかりの恐ろしいメンツだった。
(そもそもこれを日向が一人で、半年かけて営業して回ったという事実にも改めて目眩がする……)
「これからやるべきことは、正直沢山あってーー」
日向の言葉が、少しだけ遠のく。
私、こんな凄い人たちと同じステージで、彼らのファンを前にして、ちゃんと歌えるのかな。プレッシャーで足元がすくむ感覚に襲われ、無意識のうちに視線を落とした、その時だった。
日向は、私のその怯えをいとも簡単に見透かしたように、小さく鼻で笑った。
「……サマーレモネードは、まぁ正直背伸びしすぎだが。それ以外は、知名度以外では絶対に負けてない」
彼はホワイトボードを背にして立ち、私を、そしてサトルとマサキを真っ直ぐに見据えた。
その理知的な瞳の奥には、私たちの鳴らす音楽に対する、揺るぎない絶対の自信が燃えていた。
「前にも言ったかもしれないが。ーー相手のファンを全員奪うぐらいの勢いでやっていこう」

