少しずつ、音の海に溺れていく。
目を閉じれば、マサキの叩くビートが足元から這い上がり、私の弾くギターが激しく旋律を主張する裏で、サトルのベースがその音を支えてくれる。そしてその背後で、私を導くように正確に、けれどどこか切なく響く、日向のピアノの旋律。
音に色があるかどうかは、私には分からない。
ただ、何かの折に、日向が『音に色が文字通り視える人がいるらしい』という話をしてくれたことを思い出す。
……共感覚、とかいうらしい。
もし、私にその能力があったなら。
私の想像では、日向の紡ぐ音の色は、限りなく深海を思わせる、冷たくて静かな『深いブルー』だ。
徹底的にノイズを排除した、息が詰まるほど完璧で、どこまでも理知的な色。
けれど。
その冷たいブルーの奥底には、たまに、ぽつりと。
あの夏の終わりの鎌倉で見た駅前の街灯のような、ひどく不器用で、泣きたくなるほど優しい『暖かい光を思わせるオレンジ』が混じるのだ。
本人は計算だ、理屈だ、最適解だと嘯くけれど。
彼の一番近くで歌っている私にはわかる。彼の作る音には、その完璧な装甲の奥に隠しきれない、彼自身の人間らしい体温がちゃんと宿っている。
(……あぁ、心地いい)
この声が続く限り。
彼が私のために組み上げてくれた、この美しくて冷たい深海に、私はずっと沈んでいたかった。
いつか終わりが来て、息ができなくなる日が来るのだとしても。
この暖かいオレンジの光に包まれている間だけは、彼という海の中で、心地よく溺れていたいと願ってしまった。

