早く大人になりたかった。
大人になるためには、それを望んでいるかどうかにかかわらず、色々な痛みを経験しなければならなかった。
大学時代。
今、静かな部屋で一人振り返ってみれば、俺が必死に構築しようとしていた『完璧な計算式』なんてものは、最初から最後までノイズとバグだらけだった。
少なくとも、当時の俺にとって水瀬瑞希という存在は、自分の人生において唯一、絶対にコントロールが効かない相手だった。
それなのに。いや、だからこそなのか。俺は人生で初めてーーあの誇り高く美しい人を、自分のモノにしたいと心から渇望してしまった。
けれど、彼女の抱える強さや脆さをすべて支配しようとした俺の幼すぎる独占欲故に、その関係はちっとも上手くなんていかなかった。
バンドの方もそうだ。
サトルの隠しきれない焦燥と嫉妬。
マサキの、バランサーであるが故の傍観者としての距離感。
そして何より、シキが俺に向けてくる、あの痛いほど真っ直ぐすぎる矢印。
論理や理屈ではどうにもならない、生々しい感情の絡み合い。それに苛立ち、怯え、逃げ場を求めるようにのめり込んだ面倒すぎる裏方の事務作業ーー全国のライブハウスとの交渉、緻密なスケジュール管理、予算の計算ーーは、確実に当時の俺のキャパシティを削り取っていった。
コントロールできない他人の感情に、そして何より自分自身の醜い感情に、何度も息が詰まるほど苦しめられた。
ーーそれでも。
それらの理不尽な痛みや疲労を、すべて一瞬で上書きできるほどに。
俺たちが作り上げたあのステージの上は、狂おしいほどに楽しかったのだ。

