音に溺れる





「いいなー、若いなぁー、青春だなぁー。
よし、お姉さんがこの円山町界隈でオススメのラブホをーー」

「工藤さん!!!」

俺の限界を突破した大声が、サマーレモネードの楽屋に響き渡った。

「そういうのは間に合ってますから! そもそも俺たちはそういう関係じゃ……っ、水瀬も変なこと言うな!」

顔から火が出そうなくらい熱い。

俺の狼狽えぶりを見て、工藤さんをはじめとするサマーレモネードのメンバーたちが、ゲラゲラと腹を抱えて笑っている。

「あはははっ! 日向くん、顔真っ赤! ごめんごめん、ちょっとからかいすぎたわ。でも円山町、本当にすぐ裏だからさー」

涙目になりながら笑う工藤さんに、俺は恨めしい視線を送る。渋谷クアトロのすぐ隣が、日本有数のラブホテル街である円山町だということは百も承知だ。だからこそ余計にタチが悪い。

隣を見ると、当の水瀬も口元に手を当てて、肩を震わせてくすくすと笑っていた。

俺の焦りなどどこ吹く風といった、その余裕たっぷりの横顔。それがどうしようもなく綺麗で、そして腹立たしいほど憎たらしい。

「……もう帰ります。半年後の対バンの時は、覚悟しておいてくださいよ」

これ以上ここにいたら寿命が縮む。逃げるように楽屋を後にしようとした俺の背中に、工藤さんがふと、今度は真剣な『先輩ボーカリスト』としての声を投げかけた。

「うん! 楽しみにしてるね。……あ、日向くん」

「……なんですか」

「隣の可愛い子、絶対手放しちゃだめだよ。君、頭はいいけどそういうとこ絶望的に不器用そうだからさ」

「……っ、失礼します!!」

バタン、と勢いよく楽屋のドアを閉める。
冷房の効いた廊下に出ても、俺の顔の熱は一向に下がる気配がなかった。

無言で階段を降り、クアトロの入っているビルの外へ出る。

夏の終わりの生ぬるい夜風と、渋谷特有の喧騒が全身を包み込んだ。

「……ふふっ」

隣を歩く水瀬が、また思い出し笑いをしている。

「……何がおかしいんだよ」

俺が恨みがましく睨みつけると、水瀬は悪びれる様子もなく、ふわりと俺の正面に回り込んで歩みを止めた。

「だって。あんなに余裕のない御崎君、初めて見たから。……それに」

水瀬は一歩、また一歩と俺に近づき、その香水の甘い香りが鼻先を掠めた。

ネオンの光を反射する彼女の瞳が、逃げ道を塞ぐように俺を真っ直ぐに射抜く。

「『まだ、違う』って言ったこと。……御崎君、否定しなかったね?」

「……っ!!」

完全に、退路を断たれた。

俺の頭の中で必死に構築しようとしていた『ただの同級生』という予防線も、言い訳も。この恐ろしく魅力的なバグの前では、一切の無力だった。

背後に広がる円山町の妖しいネオンの気配と、目の前で小悪魔のように微笑む水瀬。