音に溺れる




俺の頭の中で渦巻いている、そんな身勝手な祈りを知ってか知らずか。

ふと、隣に気配がして、片手に缶ビールを持ったマサキがしゃがみ込んできた。

視線の先では、シキとサトルが新しい花火に火をつけようと、身を寄せ合って笑い声を上げている。

「……仲良いよな、あの2人」

マサキは少しだけ目を細め、ぽつりとこぼした。

「俺も入り込めねーよ。高校の時からずっとそうだった」

ドラムというポジションから、常にメンバーの背中を俯瞰で見続けてきたマサキの言葉には、妙な説得力と諦観が混じっていた。

「『付き合ってるんだよな?』って何回も噂されるたびに、シキが違うって怒ってさー。でも、俺から見ても、ほんとにただの幼馴染、みたいな距離感じゃなかった気がする」

「……歪だな」

俺は、手元のぬるい缶を見つめたまま、冷たく事実だけを切り取った。

「お互いその距離感で納得してるならいいが、サトルは違うだろう」

シキは純粋に『大切な幼馴染』としてサトルを無防備に信頼している。だが、サトルの視線に混じるのは、明確な独占欲と熱だ。その前提がズレたまま、お互いにとって都合の良い「特等席」に座り続けているあの関係性は、俺から見ればいつ破綻してもおかしくない致命的なバグを抱えている。

俺が淡々と指摘すると、マサキは少しだけ驚いたように目を丸くして、それから苦笑した。

「……あ、日向やっぱり気づいてた? 鋭いなーおまえ」

マサキは缶ビールを一口飲み、それから、まるで世間話でもするようにひどく軽い声で爆弾を落とした。

「せいぜい、サトルに嫌われないように努力しろ。俺は相談ぐらいには乗ってやる」

その言葉に、俺は微かに眉をひそめた。

ドラムという、一番後ろからバンド全体を俯瞰するポジションにいるこの男は、俺が思っている以上に人間関係の力学を正確に把握しているらしい。


サトルがシキを好きだということ。そして今、そのサトルが一番警戒し、苛立ちを募らせている相手が、他でもない『シキに絶対的に頼られている俺』だということ。

俺は小さく鼻で笑い、彼に一番ふさわしいラベルを投げつけた。

「……傍観者」

「おう。中立に徹しててやる。ありがたいだろ?」

マサキは悪びれる様子もなく、カラカラと笑った。

盤面を必死でコントロールしようとする俺。
感情を隠してシキの隣を死守しようとするサトル。
無自覚なままその中心にいるシキ。
そして、安全圏からその歪な人間模様を眺めるマサキ。

「……性格悪いぞ、お前」

「日向にだけは言われたくねーよ」

俺たちはそれ以上お互いを深掘りすることなく、再びそれぞれの視線を、燃え尽きようとしている花火の方へと戻した。

中立を宣言したマサキの存在は、俺にとってある意味で一番気楽で、同時に、このバンドがいかに危ういバランスの上に成り立っているかを突きつける、残酷なストッパーでもあった。