音に溺れる





楽しそうな笑い声が響く、暖かな光の輪。

俺はそこから一歩引いた暗がりで、ぬるくなった缶の表面を指でなぞりながら、ひどく冷めた頭でタイムリミットを反芻していた。

(……あと、一年半。それだけでいい)

それだけ、この絶妙なバランスが持ってくれれば。
……俺は予定通りこのバンドを抜けて、あとはシキ達の自由にやってくれていい。

サトルは、あの輪の中の正当な『幼馴染』というポジションに戻って、シキの隣に立てばいい。

シキも、俺が押し付ける息苦しいルールやスケジュールに縛られることなく、持ち前の直感で自由に歌えばいい。

恋愛も、音楽も、彼らの将来も。

ただの『ぽっと出の異分子』である俺には、そこまで干渉する権利なんて最初からないし、干渉したいなんて微塵も思っていない。

そう、思っていないのだ。

俺の役割は、あくまで彼らの才能を世に出すための『プロデューサー』であり、踏み台に過ぎない。

……ただ、最後に楽しかった、と言って終わりたい。

俺の人生において、最初で最後の、このどうしようもなくバグに塗れた不合理な時間を。


バンドとしての最高の幕引きは、すでに俺の頭の中で寸分の狂いもなく計算してある。
あの日シキが満員にしたいと言った渋谷クアトロ。
……十分、そのルートに乗っている。決して破綻なんてしていない。俺の引いたレールは、完璧に機能しているはずだ。

(だから、頼む)

チリ、と。

サトルの持っていた線香花火の火球が、限界を迎えて地面に落ちるのを見つめながら。

俺は誰に祈るでもなく、ただ必死に、縋るように胸の奥で願っていた。

これ以上、盤面を乱さないでくれ。

サトルの燻るような焦燥感も。シキが時折こちらに向ける、無防備で熱を帯びた視線も。


これ以上、俺の完璧な計算式にーー致命的な『ノイズ』を、増やさないでほしい。