バツが悪そうにそっぽを向いた彼に、私が少しだけクスッと笑いそうになった、その時だった。
彼が鍵盤の上に残していた指先から、力を抜く。
スタジオにほんの少しだけ、静かで柔らかい沈黙が落ちた。
「……でも、シキは」
ふと、日向が独り言のように低い声で呟いた。
さっきまでの刺々しい理論武装が嘘のように、その横顔には何の力みもない。
「……多分、俺がこうやっていちいち意図を言語に落とし込んで説明しなくても、多分感覚ではわかってる」
「日向……?」
私が瞬きをすると、彼はゆっくりとこちらに向き直った。
いつも私を理詰めでやり込める、あの氷のように冷たくて知的な瞳が、今は信じられないくらい真っ直ぐに私を捕らえていた。
「お前の書く歌詞は、いつも……俺が音にこめた微妙なニュアンスを狂いなく拾ってくるから」
トニカだのドミナントだの、そんな小難しい呪文を知らなくても。
私が直感で紡いだ言葉たちは、彼が緻密な計算で隠した「孤独」や「焦燥感」という裏の顔を、無意識のうちに完璧に掬い上げていたらしい。
「……正直、すごいと思ってるよ」
静かな、けれど一片の嘘も混じっていない、剥き出しの賞賛。
ドクン、と。
自分の胸の奥で、心臓がいつもより大きく跳ねる音がした。
普段は鬱陶しいほどに理詰めで、口を開けば正論ばかりで。
そんな男から、こんな風に真っ直ぐに才能を認められることが、これほどまでに胸を締め付けるなんて知らなかった。
言葉を失って立ち尽くす私を見て、日向はまた少しだけ照れ臭そうに視線を逸らし、今度はわざとらしく乱暴にキーボードの電源を落とした。

