音に溺れる




場面は変わり、深夜の自室。


私はベッドに体育座りをして、日向から送られてきたばかりのデモ音源をイヤホンで聴いていた。
流れてくるのは、彼が一人でPCに向かって打ち込んだ、冷たくて美しいピアノの旋律。

目を閉じて、その音の連なりに耳を澄ませる。

――あぁ、やっぱり。
私が彼とほんとうに同じ目線で話せる気がするのは、こうやって曲を作っている時だけだ。

私は日向みたいに音楽の専門的な知識は実のところあまりない。
『作詞、できる?』と日向に聞かれて、衝動で『やりたい』と返してしまった瞬間から作詞担当になってしまっただけで、上手くやれているかは本当のところ分からない。

それでも、彼の音源を聴くと言葉が自然と浮かんでくる気がする。

普段はあんなに分厚い理論と理性の鎧を着込んでいるくせに。
音符の並びには、彼が必死に隠している「孤独」や「迷い」、そして誰かに見つけてほしいという「ひ弱な叫び」が、痛いほど生々しく滲み出ている気がするのだ。

彼自身は「計算の結果だ」なんて強がるけれど、私には分かる。これが、日向の本当の心臓の音だ。

私は、ルーズリーフにペンを走らせる。

強がりで、不器用で、本当は誰よりも人間臭い、私の大切な「完璧超人」の代わりに。

 
“こころはどこにある?”

“見えないものを探してあがくのに 僕らは少し疲れている”


書き付けた文字をなぞる。
明日のスタジオで、彼がこの歌詞を見たとき、どんな顔をするだろうか。

図星を突かれて少しだけ顔をしかめる彼の不機嫌な横顔を想像して、私は少しだけ、誇らしいような、寂しいような笑みをこぼした。