音に溺れる




少し後ろをついてくる足音を聞きながら、海風の中でふと、自嘲めいた思考が頭をもたげる。

……与えられた役割を完璧に演じきることには、昔から慣れている。

“優等生”
”牧師先生の息子”
”医学生”
”バンドのリーダー”

他人が俺に求める理想像を計算し、その枠組みから一歩もはみ出さないように振る舞うこと。

……正直、息が詰まることがないと言えば嘘になる。常に誰かの評価の目に晒され、完璧でいなければならないプレッシャーは、真綿のように首を絞めてくる。

けれど、誰からも何も期待されないよりはよっぽどマシだ。

期待には、応えたかった。

与えられた役割を投げ出すような、無責任でみっともない真似はしたくなかった。そうやって自分の感情を殺して役割を演じ続けることだけが、俺がこの世界で安全に生きていくための唯一の防衛手段だったからだ。

ざざっ、と。

少し大きな波が打ち寄せ、足元の砂をさらっていく。

(……でも)

本音を言えば。

本当は、何も計算なんてしたくない。

誰かの期待に応えるためのメッキなんて全部剥がして、ただ息をしているだけで許されるような、安らぎを与えてくれる場所がどこかに欲しい。

……もう、失ってしまったからこそ。

あの絶対的な安心感を、どうしようもなく求めてしまうのだろう。

俺は波の音に紛れさせるように短く息を吐き出し、胸の奥底に沈んだその脆い本音に、再び分厚い理性の蓋をした。