そっと、目を閉じて息を吐く。
視界が閉ざされて、音だけの世界になる。
「考えるより先に、まず感覚でちゃんと理解しろ」
すぐ傍で、日向の静かで低い声が響く。鍵盤がポーン、と単音を弾いた。
「歌う時、どこに無意識に力を入れる癖がある? 喉の筋肉はどう動いてる?」
日向の声と、彼が紡ぎ出す音を頼りに、暗闇の中で音を拾っていく。
頭で理論を処理するんじゃない。自分の身体という楽器の鳴り方を、内側から探り当てる作業。
見えないものを、掴もうと足掻く。
息の量、声帯の開き具合、響かせる骨の場所。
彼の求める『一番綺麗な音』の輪郭を手探りでなぞるように、私は喉の奥を震わせた。
ーーあ、と。
自分でもはっきりと分かるくらい、淀みのない透き通った音が、すっと空気に溶けていった瞬間があった。
「……そう。今の声、すごく良かった」
鍵盤の音が止まり、日向の吐息が微かに漏れる。
いつもは厳しい彼の声が、驚くほど優しく、確かな熱を帯びて鼓膜を揺らした。
「その感覚、忘れないで」
ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前で彼がこちらを見つめていた。
そこにあるのは、ただのボーカルとしての枠を超えて、私の限界の先を誰よりも強く信じている瞳。
「……大丈夫だ。シキなら絶対に出来る」
真っ直ぐに告げられたその言葉が、不器用な彼なりの最大の魔法みたいに、胸にじんわりと染み込んでいった。

