じりじりと肌を焼くような日差しの下、アトラクションの長い列の半ばまで進んだ頃だった。
無言で前を見つめていた俺の顔を下から覗き込むようにして、シキが不安げに声をかけてきた。
「……日向、やっぱりこういう場所苦手だった?」
「……いや。楽しいなって思ってるよ」
「その割に、楽しそうな顔してない」
不満そうに唇を尖らせるシキに、「そんなことない」と俺は苦笑して、言葉を濁した。
楽しいと思っているのは、本当だ。
……ただ、同時にもうこんな風に、無責任にただ遊んでいられる瞬間なんて、自分の人生できっと数えるほどしかないんだろうという残酷な事実が、脳裏をどうしようもなく掠める。
本当に、無邪気に楽しめる夏はこれが最後だと思う。
来年には医学の専門科目が今よりずっと本格化する。四年生での大きな壁であるCBTの勉強も少しずつ始めないといけないし、将来に向けて病院見学だって何個か行く必要がある。
それに並行して、生活費と機材代を稼ぐためのバイト。そして、音楽。
想像するだけで吐き気がするような、圧倒的な忙しさとプレッシャー。
……果たして、両立出来るのか?
という自問自答の問いかけと同時に、そもそも俺には「やらなきゃいけない」という逃げ場のない義務感が容赦なく襲ってくる。……今から逆算して、自分に何が出来るか、少しでも論理的に考える必要がある。
俺はふと、前を歩きながらサトルとふざけ合って笑っているシキの背中を見つめた。
あいつらを、途中で放り出すわけにはいかない。
あの時、渋谷クアトロの薄暗いステージで、シキに伝えた『いつか満員にする』という約束を、俺は絶対に裏切りたくない。
ーーだからこそ、今この瞬間は、計算も理屈も捨てて全力で楽しもうと思った。
いつか、途方もない医学書の山と、終わらない楽曲制作の狭間で、自分が全力で走ることに疲れて擦り切れてしまった時。ちゃんと、思い出せるように。
強烈な夏の太陽の下で、馬鹿みたいにはしゃぐこいつらの声が。
俺の予定調和をいとも簡単に壊していくこのバンドという居場所が、自分にとってどれほど特別で、手放しがたいものだったかを。
俺は首筋に滲んだ汗を手の甲で乱暴に拭い、「ほら、列進んでるぞ」と、前を歩く三人の背中を押すように短く声をかけた。

