「……私は、ただ……日向も……あんな普通の男の子みたいな顔、するんだって……思って」
「……」
「私の知ってる日向は……きっと本当に、極一部なんだろうなって、そう思っただけだよ……」
言い訳のように紡いだ言葉は、空っぽなロビーに虚しく吸い込まれていった。
そう。私の知ってる日向は、簡単に女の子の誘いに乗ったりしなかった。
対バンした他のバンドの可愛いボーカルの子に声を掛けられても、熱心なファンの子に出待ちで声を掛けられても。彼はいつも鉄壁の笑みを貼り付けて、そんな世俗的なことには一切の興味がないと言いたげに、冷たく、スマートに断っていた。
私はずっと、彼をそういう人だと思っていた。
音楽と論理だけを愛し、女の子の我儘や恋愛感情なんていうノイズには決して揺らがない、孤高の神様。
だから私も、彼に女として見られなくても平気だった。「彼はそういう生き物だから仕方ない」と、諦めることができていたのだ。
……違ったんだ。
そんなのは、私が勝手に理想を押し付けていただけだった。
彼は、女の子に興味がないわけでも、世俗的なことを切り捨てているわけでもなかった。
ただ単に、今までの女の子たち――その中には当然、私も含まれている――が、彼に自分のペースを乱してでも手に入れたいと思わせるような『特別な存在』ではなかった、というだけの話。
『水瀬』というたった一人の女の子が現れただけで、私の信じていた神様は、あっさりと人間らしさを露呈してしまった。
「……ばかみたい、私」
自嘲するようにこぼした声は、ひどく掠れていた。
私が勝手に彼を神格化して、勝手に崇拝して、そして勝手に裏切られたような気になって、傷ついている。
彼の本当の姿なんて、最初から何一つ見えていなかったくせに。
サトルは何も言わず、ただ静かに、私の隣で缶コーヒーの冷たい表面を指先でなぞっていた。
彼のその沈黙だけが、今の私にとって唯一の救いだった。

