それから少しして、日向はスタジオに来た。
「ピアノ入れてもいい?」と、遠慮がちに言いながら。
私たちは正直、最初は半信半疑だった。
ロックバンドにキーボード?
ピアノなんて、正直“バラード専用”くらいにしか思ってなかったから。
けれど――その音が鳴った瞬間、空気が変わった。
彼の指先が鍵盤に触れた途端、
スタジオの狭い空間が一気に広がったように感じた。
硬いギターのリフのすき間に、
柔らかい旋律が流れ込む。
音と音の間に“呼吸”が生まれる感覚。
私の声がその上に乗ると、
まるで誰かが後ろで支えてくれているようだった。
「……すげぇな」
憬がベースを弾きながら、思わず呟いた。
「これ、なんか、ちゃんと“音楽”になってる」
正樹も苦笑いしながらスティックをくるくる回す。
「天才系きたな、これ」
日向は苦笑して肩をすくめた。
「いや、合わせやすかっただけ。
……君ら、ちゃんと歌が立ってるから」
その“君ら”の言い方が妙に優しくて、
私は思わず顔を上げた。
彼の横顔が、真剣なまなざしで譜面を見ていた。
その視線の先に、私の声がある気がして、
胸の奥が少しだけ熱くなった。

