音に溺れる





サトルは一瞬だけ目を丸くして、それから困ったように、少しだけ照れくさそうに頭を掻いた。

そして、私の目を真っ直ぐに見返して、誤魔化すことなく答えてくれた。

「ーー気づいたら、目で追ってたり」

低くて、穏やかな声だった。

「……今こうやって、隣に座って話してるだけでも、そう思うよ」

サトルは小さく息を吐き、微かに口角を上げた。

「……ただ一緒にいるだけで、幸せだなって、思う」
その言葉には、一切の混じり気がなかった。

無理をして背伸びをする必要も、完璧な言葉を探す必要もない。ただ「そこにいるだけで満たされる」という、ひだまりのように温かくて穏やかな感情。

その答えを聞いて、私は強く確信した。

「……じゃあ、やっぱり違うよ」

「え?」

「私が日向に向けてる感情は、そんな綺麗なものじゃない」

私は再び手元のペットボトルに視線を落とし、きゅっと唇を噛んだ。

「……私、日向と同じ空間にいると、いつも少し、息が詰まるから」

幸せだなんて、とても思えない。
彼と一緒にいる時、私の頭の中はいつも張り詰めている。彼の完璧な論理に置いていかれないように、彼を失望させないように。

「彼の前だと、ずっと何かを言わなくちゃ、何かを聞かなくちゃって焦るの。でも、そう思えば思うほど……自分の言葉が間違ってる気がして、言葉がいつも出てこなくなる」

神様の前に立たされたちっぽけな人間のように、ただ息を潜めて、正解の言葉を探してしまう。
緊張と、劣等感と、圧倒的な力の差を見せつけられるような、ヒリヒリとした苦しさ。

「そんなの、恋とか愛とか呼べるはずないじゃない」

私は自嘲するように笑った。


隣でサトルが、どんな顔をして私を見ているのか、怖くて振り向くことができなかった。