「お疲れ。いいライブだった」
熱気と残響がまだ耳の奥で鳴りやまない楽屋。
パイプ椅子に座ってペットボトルの緑茶を飲んでいた私に、そう声をかけてくれたのはサトルだった。
日向は「マサキと共に物販の準備をする」と言って、機材の片付けもそこそこに、先に足早に楽屋を出ていた。嵐が去った後のような静かな空間で、サトルは自分のベースを丁寧にケースにしまいながら、ふと手をとめて顔を上げた。
「……なぁ、シキ。ライブ始まる前、日向と何話してた?」
「……何って……ええと……お客さんどれくらい埋まりそうか、とか……?」
私が咄嗟に目を逸らして言葉を濁すと、サトルは静かに私を見つめた。
「それだけ?」
「……うん。それだけ、だよ」
あんな大きなステージを前にして、日向が私にだけ「お前なら絶対に出来る」と、あの熱を帯びた瞳で断言してくれたこと。その強烈な引力に、心臓が爆発しそうになっていたこと。
それはどうしても、サトルには言えなかった。
「そっか」
サトルは小さく息を吐き、私の隣のパイプ椅子に腰を下ろした。
「……なんかさ、お前、あの時の顔」
彼は言葉を探すように少しだけ目を伏せ、それから、諦めたような、けれどとても優しい声で言った。
「すげぇ遠くのものを見るみたいな……息が止まりそうなくらい、切実な顔、してたからさ」
「え……」
「俺が入る隙間なんて、1ミリもないくらいに」
図星を突かれ、私は持っていた緑茶のペットボトルをきゅっと強く握りしめた。
私の嘘も、隠したい感情も、サトルには最初から全部お見通しだったのだ。
サトルは自嘲するように微かに口角を上げ、静かに、決定的な問いを投げかけてきた。
「……シキはさ。……本当は、日向のことが好きなんじゃないのか」
責めるでもなく、ただ事実を確認するようなその声に、私は首を横に振ることしかできなかった。
「分からないんだよね」
「分からない?」
「うん。……好きって、何?」
私は顔を上げ、隣に座るサトルを見た。
これが彼に対してどれほど残酷な問いかけなのか、頭の片隅では分かっていた。それでも、自分のぐちゃぐちゃな感情の正体を知りたくて、すがるように聞いてしまった。
「サトルは……私のこと、いつ『好きだなぁ』って思うの?」

