激しくうねるような3曲目をノンストップで駆け抜け、私は荒い息を整えながらマイクスタンドを握り直した。
予定通り、ここでMCだ。
「初見の方はじめまして、そうじゃない方こんにちは! フェス楽しんでますか? ”Sound Jam”です!」
フロアから、パラパラと、しかし確かな熱を持った拍手と歓声が返ってくる。
私はそれを全身で浴びながら、背後にいる日向の視線を意識して言葉を続けた。
「えーと、ものすごく時間が限られてますので、簡単な物販の宣伝、それから次のライブと私たちの公式SNSの宣伝だけさせてください」
私は日向の教え通り、自分の感情やエモい言葉を一切挟まず、必要な情報だけをスラスラと読み上げた。
Tシャツの価格、次のライブハウスの名前、そしてXとInstagramのID。
「――以上です! あと2曲やります。最後まで楽しんで、名前覚えていっていただけると嬉しいです」
言い切った瞬間。
私の背後で、日向が「よくやった」とばかりに、次曲へのカウントとなる短く鋭いピアノの和音を鳴らした。完璧なタイムキープだ。おそらく予定より数秒巻いている。
再びサトルの重いベースラインが鳴り響き、ステージの照明が赤と青の鮮やかな色に瞬いた。
暴力的な光にようやく目が慣れてきたのか、それとも極限の集中で視界がクリアになったのか。暗かったフロアの景色が、少しずつ鮮明に浮かび上がってくる。
(……あ)
後ろ半分は、日向の予想通りスッカスカだったかもしれない。
でも、前列から中盤にかけて集まってくれた人たちは、私たちの演奏するリズムに合わせて、確かにゆらゆらと身体を揺らしてくれていた。
誰もスマートフォンなんて見ていない。お目当てのバンドの待機で仕方なく見ているような退屈な顔もない。
みんな、ステージの上の私たちを真っ直ぐに見上げ、日向の作ったビートに身を委ねている。
日向の組み上げた冷酷なまでに緻密な数式が、私の声を媒介にして、見知らぬ人々の心臓を揺らしている。
(届いてる……!)
その事実がたまらなく心地よくて、背筋にゾクゾクとするような快感が走った。
私は残りの2曲に、自分の持てるすべての熱と命を注ぎ込むように、マイクに向かって叫んだ。

