音に溺れる






暗転したステージ。

客席のざわめきがフェードアウトし、耳が痛くなるような、ピンと張り詰めた静寂がクアトロの巨大なフロアを包み込んだ。

その重たい沈黙を鋭く切り裂いたのは、日向の弾くピアノのイントロだった。

冷たくて、正確で、それでいて圧倒的な暴力性を持った、ガラスの破片のような旋律。

ーー一曲目をこの『Loud noise』に選んだのは、私のリクエストだった。

フェスの1曲目、セオリーで言えばもっと派手なバンドサウンドから入るべきだと、日向はデータを盾に反対した。
けれど、私は絶対に譲らなかった。

私は、私の歌声が凄いんだって、このフロアにいる全員に叫びたい。

でもそれと同じくらい――いや、それ以上に。

いつも一人で完璧な世界を作っている彼のキーボードが、どれほど素敵で、どれほど恐ろしい引力を持っているか。その最初の一音で、ここにいる全員に問答無用で囚われて欲しかった。

ピアノの旋律に導かれるように、サトルのベースとマサキのドラムが重なる。


その瞬間。

視界を白く焼き尽くすような、強烈なステージ照明が一斉に点灯した。

「ーーっ!」

始まった瞬間、尋常じゃない照明の眩しさで目が眩んだ。

熱を帯びた光の帯が交差して、フロアの景色を真っ白に塗り潰していく。

お客さんがどれくらい入っているか。
後ろのフロアがスッカスカなのか、それとも日向の計算通り150人の客がこちらを見ているのか。

そんなことは、もう物理的に見えない。

でも、見えなくていい。
見えないくらいが、丁度いい。

私はマイクスタンドを両手で強く握り締め、大きく、深く息を吸い込んだ。