音に溺れる





私たちは元はと言えば、日向を除けば同じ高校の出身だ。
高校2年の時の文化祭でノリで組んだロックバンドが元だった。

日向は、その頃はまだ知り合いでも何でもなかった。
彼と出会ったのは、高校3年の夏。
小さなライブハウスで開かれたイベントだった。
照明が少し古びたオレンジ色で、
真夏なのに冷房の効かない空気が、少しだけ埃っぽかったのを覚えてる。

共通の友人が、私に声をかけてきた。

「――こいつ、日向っていって。東都心大の一年。
シキちゃんの声に一目惚れしたってさ」

冗談みたいに言われたその言葉に、
私は笑いながらも、思わず彼を見た。

カッコいいお兄さんだと思った。本当に。
そして「東都心大?」って聞いて、
――国立大学。頭いいんだな、とも思った。
黒い髪に、落ち着いた色のジャケット。
派手さはないけれど、静かな誠実さみたいなものがあった。

『湊シキです。――お兄さんは、音楽やる人?』

そう聞くと、彼は少し迷ってから言った。

『俺は……ピアニストだ』

短くて、不器用な答え。
けれど、その声の奥に、
“本気で音楽が好きな人”の響きがあった。

『へぇ。――興味湧いたな。
お兄さんの曲、聞いてみたい』

あのときの私は、本当に軽い気持ちで言った。
でもその瞬間、彼がわずかに目を細めたのを、今でも覚えている。
まるで、その言葉をずっと待っていたみたいに。