夜からはイベントの打ち上げだった。
その日は複数のインディーズバンドが参加する合同イベントで、貸し切られた居酒屋の座敷は異様な熱気とアルコールの匂いに包まれていた。
「『sound jam』ってあれだよね、イケメンのキーボードがいるって最近すごく話題になってるバンド」
枝豆を口に放り込みながら、向かいに座る先輩が興味深そうに口を開く。
「今日の曲、すごく良かった。あれってメンバーの誰が作ったの?」
「ありがとうございます。曲自体は、そのキーボードの日向ってやつが。歌詞は、ボーカルのシキが作ってます」
俺がそう答えると、先輩は「へぇー」と感心したように目を丸くした。
「イケメンなのに曲作りも上手いのか。才色兼備ってやつじゃん、興味湧いたな。後でちょっと話しかけにいこ」
グラスを傾ける先輩の視線を追い、俺も少し離れた席にいる日向を横目に見る。
日向は珍しく、同期のバンドメンバーと親しげに話をしている最中のようだった。
相手は確か、『Noisy Lazy』のボーカルの進藤幹也、だったか。
ステージの上ではやけに攻撃的で饒舌だが、こういう打ち上げの場ではあまり表に出たがらないし、言葉も少ないタイプの男だったように思う。
日向と同じく、馴れ合いを嫌う職人気質だ。
それでも、音楽的なルーツが近いのか、日向とは珍しく気が合ったようだった。
居酒屋のBGMに掻き消されそうな声量だが、「あそこの裏のグルーヴが」とか「テンションコードの当て方が」とか、僅かにそれらしい単語が漏れ聞こえてくる。
二人は手元のグラスの水滴を指でなぞりながら、時折、何かに納得したように小さく笑い合っていた。
冷徹なサイボーグのように見えるあいつだって、あぁして純粋な音楽のコアな話をしていると、年相応の無邪気な熱を持ち合わせているように思えた。
「――で、歌詞書いてるシキちゃんって、サトルのお隣に座ってる子だよね?」
ふいに話を振られ、俺の隣でウーロン茶のグラスを両手で持っていたシキが、ビクッと肩を揺らした。
「あ、はい……」
「可愛いね。髪ピンクだー、よく似合ってるー」
先輩の気さくな褒め言葉に、シキは照れくさそうに自分の毛先を指でくるりと巻いた。
「ありがとうございます……。これ、お気に入りなんです」
はにかむように笑うシキの横顔を見ながら、俺は手元のビールを流し込んだ。
天才的なコンポーザーと、目を惹くピンク髪の天性のボーカリスト。
こいつらがこれからどれだけ遠くへ行ってしまうのか、少しの誇らしさと、ほんの少しの寂しさを誤魔化すように、俺はわざとらしく明るい声で先輩の空いたグラスにビールを注いだ。

