音に溺れる



「あれ?……うん、大丈夫……聞こえてる、はず」

パソコンのモニターの端。
『Rec』という文字と共に、小さな赤い丸が点灯したのを確認して、私はマイクに向かって小さく息を吸い込んだ。

「こんばんはー。……まだ、SoundJamのボーカルの、湊シキです」

少しだけ声が震えたけれど、なんとか笑顔を作ってカメラに手を振る。
画面の横を、ものすごいスピードでコメントが流れ始めた。

「えーっと。初の生配信ってことで、今日はリクエスト来た楽曲を適当に歌いつつ、皆からの質問とかにも答えていこうかなーと思ってます。よろしくお願いします」

ギターを膝の上に抱え直すと、コメント欄には早速たくさんの言葉が並んでいた。
その中で、一番多く流れてくる言葉。

『解散ショックです』
『嘘だって言ってほしい』

その文字の羅列に、私は少しだけ目を伏せ、そして、まっすぐにカメラを見つめ直した。

「ーー解散ショックです。……うん。ありがとうございます。私も正直、まだ実感持ててません」

ぽつり、と。飾らない本音をこぼす。

「ただ、私自身はこうやって、動画とか路上とかで引き続き、ソロでやっていこうかと思ってるので。……もしよければ、これからも応援してほしいな、って思います」

日向がいなくなった後の世界でも、私は歌い続ける。
彼が教えてくれたシステムと、彼が引き出してくれた私のこの声を、絶対に終わらせないために。

『ソロでも絶対推す!』
『クアトロ参加します!』

温かいコメントが流れてきて、私は思わず頬を緩ませた。 

「あ、クアトロ参加します! ありがとうございます! ……ほんとにね、一年と少し前にサーキットフェスでクアトロで歌ったんですけど。その時は、ほんと200人ぐらいしか埋められなくて。正直、とっても悔しくて」

ふと、あの日の薄暗いステージ裏の光景が脳裏をよぎる。
俯く私に、日向がかけてくれた言葉。

「日向に、いつか絶対に満員にしたいって夢を語り合った、正直、約束の場所というか。……今回ワンマンやれて、ほんとーにワクワクしてます」

そう。あそこはただの大きなハコじゃない。
私と日向の、最初で最後の、約束の場所なのだ。

流れてくるコメントの速度が、さらに上がる。

『シキちゃんからみた日向君って?』

その質問を読み上げた瞬間、私の心臓がトクン、と大きく跳ねた。

私から見た、日向。

「えー、難しいなぁ。一言で言えない」

私は困ったように笑って、天井を見上げた。
冷たくて、気高くて、優しくて、残酷な人。
私の人生を狂わせて、どうしようもない光を与えてくれた、たった一人の神様。
そんなの、ただの言葉でなんて説明できるわけがない。

「ーー実は、それを曲にしたのが、先々月かな? に公表した曲なので」

私は膝の上のギターを優しく撫でながら、彼と一緒に作り上げた、私の痛みの結晶の名前を思い浮かべる。

「是非、そんな感じで聞いてみてください」